2018年7月5日木曜日

「うつ症状を訴える人は、ほぼ100%、体内で代謝のトラブルや栄養素の不足が起こっています」

高城剛氏の有料メルマガ、高城未来研究所「Future Report」Vol.366 &Vol.367(2018年6月22日&29日配信)の中の"「病」との対話"に分子整合栄養医学の溝口徹先生がご登場。鬱や統合失調症と名付けられた症状で苦しむ方に貴重な情報が入っているので、まだ今後も数回続きそうですが、コピペでご紹介します。(画像やリンクの挿入や文字修飾はこちらで勝手にやりました。)

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■「病」との対話
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現代社会において、「病」や「未病」は医者ではなく、自らと対話する必要があります。

しかし、向き合う方法は、そう簡単に理解できるものではありません。

先端医師や代替医療者の他では聞けない話を通じ、いかにして「病」や「自己の問題」と向き合えばいいのかを探ります。
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現在このトピックは高城剛氏ではなくスタッフがインタビューを担当しています。

新宿溝口クリニック 溝口徹院長
【プロフィール】
神奈川県出身。
1990年福島県立医科大学卒業。
横浜市立大学医学部付属病院などを経て、神奈川県藤沢市に溝口クリニック(現辻堂クリニック)を開設。

ペインクリニックを中心に内科系疾患の診療にも従事していたが、2000年から分子栄養学的アプローチを応用し始め、治療が困難な疾患に対する栄養療法を実践し、多くの改善症例を持つ。

2003年、日本初の栄養療法専門クリニック『新宿溝口クリニック』を開設。

2016年、オーソモレキュラーの国際学会であるISOM(International Society for Orthomolecular Medicine)のHall of fame(殿堂入り)となる。

著書に『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』(光文社新書)などがある。

第1回 (2018/6/22号から)

日本において、栄養学が誕生したのは1910年代である。

食品にどれだけの栄養素が含まれているのか、何をいつどのように食べたらいいのかという研究が、この頃から始まった。
研究が進むにつれ、専門学校が創設されて、栄養士法が定められ、管理栄養士が誕生した。
第二次世界大戦後には、日本人の食生活が欧米化。
1950年から75年にかけて劇的に食事内容は変化し、牛乳の摂取量は15倍、肉類や卵は7.5倍、脂肪は6倍にもなったという。

そんな中、1980年ごろには生活習慣病や肥満が社会的な問題になり、食品と健康の関係が注目を集め、健康維持という観点から食が考えられるようになった。

だが、日本における栄養学は、未だに「何をいつどのように食べるか」という概念を超えていない。
100年以上も前に作られた栄養学のルールが、今もなお、私たちの食生活を監視しているのだ。
食卓に並ぶものがどれだけ欧米化し、ジャンク化し、多彩になったとしても、である。
同時に指摘されるのは、管理栄養士の知識不足だ。

糖尿病患者への食事指導においても、旧態依然のカロリー制限食しか指導できなかったり、「脳はブドウ糖しかエネルギー源として使えない」など、公然と語っていたり・・・。
そんな状態だから医療の現場において、管理栄養士はコメディカルの一員として確固たる地位に立てないのだ。

栄養学について無知な管理栄養士が多い。
この皮肉な状況が起こっている一方で、近年、ようやく新たな栄養学が広まりつつある。
分子栄養学である。

分子栄養学、あるいは分子整合栄養医学と呼ばれ、欧米ではすでにオーソモレキュラー療法として広く認知されている。

詳しくは、日本におけるオーソモレキュラー療法の先駆者の一人である、新宿溝口クリニック院長の溝口徹先生に語っていただくが、果たして、栄養学が医療を変える時代は日本でも訪れるのだろうか。

▼うつ病からがん治療まで。オーソモレキュラー療法とは

Future Report研究員:オーソモレキュラー療法とはどんなものか、簡単にご説明をお願いします。

溝口:「オーソ」とは「整える」、「モレキュラー」とは「分子」という意味。
一般に、日本語では「分子整合栄養医学」と訳されることの多い療法です。
海外では「オーソモレキュラー療法(orthomolecular medicine)」と呼ばれ、1960年代から広く実践されてきました。

Future Report研究員:栄養学を根拠としていますが、これは医療行為の一種なのですか。

溝口:そうです。
海外ではうつ病やパニック障害、発達障害などメンタル面の疾患から、がん治療や不妊治療まで幅広く対象としています。

オーソモレキュラー療法では、体内の栄養バランスの乱れが疾病や症状の原因だと考えます。

人体は、約60兆個の細胞からできていて、一つひとつの細胞は、私たちが食べたものを材料にして作られています。

つまり、体内において正しい栄養素がスムーズに入れ替わることによって、細胞が健康に保たれ、疾病や異常の発生を防いでいるのです。

Future Report研究員:裏返せば、食事から取り入れる栄養素に偏りがあったり、体に不適切な栄養素を取り続けたりすることで、疾病や異常が起こるということですね。

溝口:私たちが実践するのは、人体の細胞を構成する分子のバランスの乱れを、栄養素、つまり、サプリメントを用いて整えていくという療法。

ここでいう分子とは、人体を分子レベルで考えるということを意味しており、分子レベルで正しい栄養を補っていくという意味です。

Future Report研究員:個々の細胞に焦点を当てるという意味で、一般的にイメージする栄養学と大きく異なるのですね。

溝口:従来の栄養学は、簡単にいえば、栄養素が欠乏しないようにするためのもの。

人間が健康を維持するのに最低限、必要な栄養素の量を計算し、不足を無くそうとするものです。
しかし、実際には人によって同じ活動量でも生活環境やストレス、体格、遺伝、既往歴などによって必要な栄養素の量は異なります。

栄養学で計算した栄養素をきちんと補っていたとしても、欠乏症になることは防げたとしても、健康を維持するためには、まったく足りていないということも少なくありません。

Future Report研究員:欠乏症にならないギリギリの量で栄養素を摂取していたら、少しずつ体は弱り、体に異常が見られることもある、ということでしょうか。

溝口:そこでオーソモレキュラー療法では、生体の構成分子を本来あるべき正常な状態に整え、不足している栄養素を最適量、補給することで、人体が本来持っている生体恒常性や自然治癒力を高め、病気の進行を防いだり、症状を改善したりすることを目的とします。

そのため、栄養摂取基準で推奨される量の数倍、ときには数十倍も多くビタミンやミネラルなどの栄養素を摂取することもあります。

栄養素不足を補うための量ではなくて、個人の最適量を補給することで細胞を最適に機能させることができるからです。

Future Report研究員:日本では最近、分子整合栄養医学やオーソモレキュラーという言葉を耳にする機会が増えましたが、欧米では1960年代から広まっていたんですか。

溝口:1960年代には、すでにカナダでオーソモレキュラーを研究する学会が作られ、北米を中心に実践されていました。

しかし日本では、オーソモレキュラー療法は日々の食事を変え、サプリメントを活用して栄養素を補うことが治療の中心なので、医療行為としてなかなか認知されなかったんです。

また、「サプリは日常の食事で足りない栄養素を補うもの」という考えから脱却できない医療関係者も多く、長くオーソモレキュラーは医療行為であると理解されてきませんでした。

しかし私たちは、「ある栄養素が体内で一定濃度以上になったとき、初めて薬理効果を示す」という考えに立ち、オーソモレキュラー療法とは体内の分子濃度を調整することで疾病を治療する医療行為であると考えています。

こうした考えが日本で認知されるようになったのは、ここ数年のこと。今年のゴールデンウィークに日本で初めてオーソモレキュラーの国際大会が開催されたこともあり、ますます注目を集めるようになりました。

▼欧米から50年遅れで、日本で芽をだす

Future Report研究員:欧米から50年も遅れて、ようやく日本でもオーソモレキュラーという医療行為が認知され始めたということですね。

そもそも、先生のご専門はなんだったのでしょうか。

溝口:私は麻酔科の医師だったんです。
福島県立医科大学に入学して、いろいろな科で臨床研修をしたのですが、そのうち医者が嫌いになってしまったんですよ。
偉そうだし、やっていることはガイドラインに沿っているだけだし・・・。

それで、「もっとも医師らしくない医師になろう」と思い、麻酔科を選びました。

しかし大学を卒業し、麻酔科の研修医として勤務しているとき、普段は偉そうにしている外科医たちが、実は手術が下手で、技量が低いということに気づいてしまったんですよ(笑)

それで研修半ばで辞めてしまって、生まれ故郷である神奈川の辻堂でペインクリニックを開業しました。

それが30歳の時です。

Future Report研究員:そんなに若くして独立して開業する医師なんて、珍しいですよね。

溝口:そうですね、地域の医師会でも一番の若輩者でした。
ただクリニックは、ものすごく流行ったんですよ。神経ブロック注射も行っていましたから、毎日、たくさんの患者さんが来院されました。

しかしそんな中、妻が二人目の子どもを出産したあと、激しく体調を崩したんです。

病院に行っても症状はよくならず、あれこれ手を尽くして原因を追求するうち、オーソモレキュラーという考え方に出合いました。

Future Report研究員:まだ、日本にオーソモレキュラーという考えがなかった頃ですよね。

どうやってオーソモレキュラーの治療法を学んだのですか。

溝口:私が学び始めたのは、1997年頃です。

私自身、「サプリメントは食事による栄養素の不足を補うもの」くらいの認識しかありませんでしたから、食事内容を変え、サプリを使うだけで、通常の治療法ではまったく良くならなかった妻が劇的に回復したことが、自分でも信じられなかったんです。

それでオーソモレキュラー療法に興味がわきました。

日本における分子栄養学の魁といわれる、分子栄養学研究所所長の金子雅俊先生に師事したり、オーソモレキュラー療法を確立した一人であるエイブラハム・ホッファー博士に会いにカナダへ行ったりして、学びを深めました。

そのうち、ペインクリニックでも患者さんを対象に、オーソモレキュラー療法を実践し始めたんです。

Future Report研究員:オーソモレキュラー療法は、まず患者さんに対してどのようにアプローチするのですか。

溝口:始めに血液検査を行います。

検査項目は人によって異なりますが、項目数は一般的な健康診断の6~7倍、人によっては10倍以上と多岐に渡ります。

たとえば、タンパク質の状態を調べたり、脂質がうまく利用されているのか確認したり、ビタミンやミネラルに不足はないかチェックしたり、体内の栄養状態をきめ細かく把握します。
そのほか問診で生活習慣や自覚症状などもうかがい、統合的に診断を行います。

Future Report研究員:ペインクリニックでは、どのような患者さんを対象にオーソモレキュラー療法の実践を始めたのですか。

溝口:まずは、どんな治療をしても痛みが取れないという患者さんから任意で血液検査を始めました。

慢性疼痛など、痛みが長引くのは分子レベルでの栄養状態が関係しているんじゃないかと考えたからです。

そのうち、捻挫や怪我など明らかな外傷の患者さんは除いて、すべての方に血液検査を行うようになりました。

みんなから血を抜くので、「吸血鬼の先生」とあだ名をつけられたほどです(笑)

地元では、「溝口先生のところへ行くと血を取られるから気をつけなさいよ」と噂まで立っていました。

Future Report研究員:しかし、確実に治療効果が見られたのですね。

溝口:痛みだけでなく、目眩や頭痛などさまざまな症状に代謝や栄養の問題が関係していることがわかりました。

全員とまではいきませんでしたが、かなり高い確率で症状が軽減されたのです。

オーソモレキュラーに関する論文や学会での発表を見れば当たり前のことですが、当時の日本ではまだオーソモレキュラーの考え方自体が認知されていませんでしたから、注射や薬を使わず、食事内容を変えたり、サプリを摂取したりするだけで痛みや症状が改善するということは、とても画期的なことだったのです。

それで自信を持って、患者さんへオーソモレキュラー療法を実践するようになりました。

それ以後、ブロック注射が必要な患者さんが来院されると、他のクリニックを紹介しています。

今も辻堂のクリニックはありますが、ブロック注射なんて怖いことはやっていません(笑)

Future Report研究員:そうすると、一体何科のクリニックになるんですか。

溝口:辻堂のクリニックで私は現在、第一週目を除き、水曜午前の外来を担当しています。
クリニックは内科、小児科、ペインクリニックを標榜していますが、実際は栄養療法を希望する患者さんが多いですね。

この新宿のクリニックは、心療内科、精神科、内科を標榜しています。

▼統合失調症やうつ病の根本治療

Future Report研究員:心療内科や精神科を標榜しているということは、オーソモレキュラー療法は、痛みを軽減したり、疾病を治療したりするだけでなく、メンタルの治療にも効果的ということですか。

溝口:そもそも、先ほどお話ししたカナダのエイブラハム・ホッファー博士は、精神科医でもあったのです。

彼は、統合失調症が発症する背景にはナイアシンの不足が関係しているのではないかという仮説をたて、立証することに成功しました。

そして、脳内の栄養素を意図的に変えることで、統合失調症を改善できるのではないかと考えたんです。
それを理論的にバックアップしたのが、オーソモレキュラーという単語を考案したライナス・ポーリングで、この二人によって、オーソモレキュラーの基礎が確立しました。

これが1950年代の話です。

Future Report研究員:ということは、もともとオーソモレキュラーは統合失調症などメンタル面での疾患を対象に研究が進んだということですね。

溝口:そうです。

現在も、オーソモレキュラーがもっとも活躍する分野は精神的な疾患です。
実際、脳のトラブルにオーソモレキュラーが非常によく効くということもありますが、通常の治療では精神疾患を治すことは非常に難しく、解決の手段がなかったということも、オーソモレキュラーが精神科でもっとも応用されている理由でしょう。

Future Report研究員:日本では、うつ病などの精神疾患では心療内科を受診して、保険適用の薬を処方されるのが従来のパターンだと思います。

しかし、それでも改善せず、逆に薬中毒のようになってしまっている人も見られますが、そうした現状をどう思いますか。

溝口:僕らが学生だったころ、うつ病は治る病気だったんですよ

基本的に、うつ病は治せるものであり、長期化しないものというのが、当時の常識でした。
しかし最近では、うつ病の治療は困難であり、治らないもの、あるいは、再発しやすいもの、という考えが一般的になっています。

また、従来のうつ病と違う症状や傾向を見せるものを「新型うつ」と呼んで区別したり、どうも、小手先のことで対応しているような感じがします。

もしかしたら、僕らが学生の頃に習ったような、古典的なうつ病の患者はそれほど増えていなくて、その代わり、他のことが原因になって、うつっぽい症状を訴えて「うつ病」と診断されている人が増えているのかもしれません。

Future Report研究員:古典的なうつ病であれ、うつ病っぽい患者であれ、多くの医師は抗うつ剤を処方しますよね。

溝口:精神科の診断基準は症状がベースなので、患者がうつ症状を訴えれば抗うつ剤を処方するということは、ガイドラインで定められた通りです。

確かにそれは現在の日本の医療では正しい考え方なのかもしれませんが、結局、患者がその薬を手放せなくなったり、依存症になったりしていることは否定できません。

Future Report研究員:当然、そんな状態ではうつ病は治りません。
しかし、オーソモレキュラー療法なら抗うつ剤を使わなくてもうつ病を治療できるということですね。

溝口:全員とは言いませんが、通常の標準治療に比べて、かなりの確率で社会復帰することができると思います。

Future Report研究員:抗うつ剤を使わず、どうやってうつ病を治療するのですか。

溝口:ホッファーは、治療のゴールを「どんな患者であっても、タックスペイヤーに戻すこと」と定めました。

つまり、現在日本ではメンタル面での異常が見られると、不安障害や適応障害など「なんとか障害」という診断名をつけて、患者を保護したり、入院させたりすることが治療と考えられていますが、そうではなく、うつ病の患者も必ず治癒し、社会に復帰させて働かせること、そして、薬を使わなくてもいい状態に戻すことが、オーソモレキュラーにおける治療のゴールなのです。

しかし日本では、うつ病の人が病院での治療を終えた後でも、なかなか社会復帰できなかったり、勤務時間や仕事の内容に制限を与えられたり、閑職に追いやられたりしてしまいます。
これは、本当の意味で治療とは言えません。

Future Report研究員:当然、薬もなかなか手放すことはできませんよね。

溝口:うつ症状を訴える人は、ほぼ100%、体内で代謝のトラブルや栄養素の不足が起こっています

従来の治療は対症療法であり、そうしたトラブルの改善に目を向けていません。

そのため、私たちは体内の栄養バランスを整えていくことで、本来持っている自己治癒力を高め、病気や症状の改善にアプローチする根本的な治療を行うのです。

第2回 (2018/6/29号から)

現在、うつ病の患者が増えている。
とりわけ、サラリーマンのメンタルヘルスは政府にとっても重要なテーマであり、2017年6月には産業医制度が改正。
ストレスチェック制度を含むメンタルヘルス対策や過労死防止対策などにおいて、産業医に求められる役割が増大した。

だが、果たして社会ではうつ病患者が増えているのか。
そして、うつ病は本当に治らない病気なのか。
症状が見られたら、心療内科や精神科を受診して、「うつ病は心が風邪をひいたようなもの、誰でもかかる病気です」など曖昧な言葉とともに、抗うつ剤を処方されておしまい、というのが世間一般の流れである。
しかし、うつ病は本当に「心」の病なのだろうか。
心の病と片付けることで、何か、大切なものを見落としていないだろうか。

頭が痛くなっても、お腹を下しても、腰が痛くなっても、「原因はストレスです」という診察で済まされるこの世の中。
「ストレス」という言葉は、まるで強力な免罪符のようである。
ストレスのない人はいない。
だから、ストレスが原因で起こる病気は甘んじて受け入れなければならない。
それはかつて、糖尿病や高脂血症は加齢によって発症すると考えられ、「高齢になったら誰でもそういう病気にかかる可能性があるのだから仕方がない」とし
て、「成人病」という名と共に、安易に片付けられていた時代を思い出させる。

だが、そうした考えは日本の医療が進化するのに伴い、「糖尿病や高脂血症は、自分自身の意識の低さと誤った生活習慣が発症の要因である」と上書きされた。
そして、「成人病」は「生活習慣病」へ名を変えた。
そうした疾病の発症は、あくまでも自分自身の生活習慣が原因であり、「健康は自己責任」とされたのである。

現在、うつ病はかつての成人病と同じ扱いを受けている。
「現代人は誰でもストレスがあるのだから、うつ病にかかっても仕方ない」で済
まされているように思えるのだ。
しかし、もっと患者自身が主体的にうつ病を克服する手段はないのだろうか。
オーソモレキュラー療法という新しい医療を実践する新宿溝口クリニック院長の溝口徹先生に、最先端のうつ病治療について話を聞いた。

▼うつ病も、体内での代謝トラブルが原因

Future Report研究員:先生は、オーソモレキュラー療法によってうつ病を治療していらっしゃいます。
抗うつ剤を使わず、どうやってうつ病を治療するのですか。

溝口:オーソモレキュラー療法ではまず初めに血液検査を行い、体内でどのような代謝トラブルや栄養素の不足が起こっているか、確認します。
ひとがうつ症状を訴える時には、必ず代謝のトラブルが起こっていて、栄養上の問題がみられるからです。
たとえば、ビタミンB群はストレスがかかった時に消費されやすい栄養素であり、これがどれくらい少なくなっているかみることで、ストレスの度合いを測る
ことができます。

Future Report研究員:ということは、ビタミンB群を適正な量投与することで、うつ病を改善できるということですか。

溝口:もちろん、ただ投与すればいいわけではありません。
うつ病になる仕組みはまだ明確に解明されていませんが、過剰なストレスや過労などが原因となり、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンの量が減少することで、うつ症状がでることもあります。
その場合は、どの神経伝達物質の働きが鈍っているのか突き止め、それを活性化させることで、うつ症状を改善することができるでしょう。
しかしこうした療法は、機能の落ちている特定の神経伝達物質だけに働きかけるもの。
オーソモレキュラー療法は滞っているところだけに働きかけるのではなく、すべての流れを改善します。
そのための第一歩がビタミンB群を投与すること、その中でも特にナイアシンを投与することなのです。

Future Report研究員:ナイアシンはセロトニンの生成に関わる物質ですから、セロトニンを増やすことでうつ症状を減らすという流れですね。
投与量はどうやって決定するのですか。

溝口:各自の状態によって決定します。
ときどき、「ナイアシンを飲んでもうつ状態がよくならない」という患者さんもいらっしゃいますが、その場合はナイアシンが効かないのではなくて、摂取している量が不足していたり、ナイアシンの効果を得るために必要な他の栄養素が不足していたりするケースがほとんどです。
私の経験から言って、うつ病の患者さんの約8割は、適正な量のナイアシンやビタミンB群を投与することでうつ病が改善されています。

Future Report研究員:ナイアシン以外にうつ病の治療に効果的な栄養素はありますか。

溝口:男性なら亜鉛、女性なら鉄ですね。
男性に亜鉛が必要なのは、亜鉛は性ホルモンの合成や精子の生成などに深く関係しているから。
「亜鉛が不足すると男性機能が低下する」と言われるのはそのためです。
だから男性のうつ病患者さんにはナイアシンに加えて亜鉛を投与しています。
一方、女性には鉄を加えることが多いですね。
女性には月経があり、貧血と診断されていなくても慢性的に鉄が不足している人が多いからです。

Future Report研究員:こうした治療結果が出ているにも関わらず、なぜ、日本では効き目が定かではない抗うつ剤を処方するという従来の治療が続けられているのでしょうか。

溝口:保険診療の弊害が大きいですね。
オーソモレキュラー療法は保険適用外なので、患者さんにとって負担が大きくなるでしょう。
またこうした治療法を取り入れることは、少なからず医師にとってもリスクになります。
日本の医療ではガイドラインが明確に定められているので、ラインから外れたことをすると途端に医療関係者からバッシングされることもあります。

Future Report研究員:先生もバッシングされたんですか。

溝口:最近、オーソモレキュラー療法の認知度が高まったこともあり、それほど目立ったことはありませんが、以前はしょっちゅうでしたよ。
患者さんがかかりつけの医師に「オーソモレキュラー療法を始めるために溝口先生のクリニックへ行ってみたい」とお話されたところ、「そんなところ、行っちゃダメだ!」と言われた、というお話はよく聞きました。
また、ある大学教授が執筆した本で、霊感商法など怪しげなものに引っかかってしまったうつ病患者さんのケースをまとめたものがあるのですが、そこにもオーソモレキュラー療法が出てきたんだそうです(笑)
うちの患者さんが、「先生、こんなこと書かれていますよ!」って教えてくれたんですけどね。

Future Report研究員:大学の先生の立場で言えば、食べものやサプリでうつ病が治ってしまったら都合の悪いことがたくさんあるのでしょうね。

溝口:恐らくそうでしょう。
あとは、うちで処方しているサプリメントが一般の価格に比べて高額であることも、叩かれた理由かもしれません。
まあ、高いと言っても霊感商法で買わされる壺よりは安いと思いますけど(笑)

Future Report研究員:このクリニックを開業したのはいつですか?

溝口:15年前です。
当時はまだオーソモレキュラー療法という言葉も認知されていませんでしたから、周囲からはバッシングされるどころか、まったく無視されている状態でし
た。
それが少しずつ認知度が上がるにつれて、叩かれるようになった。
でもここ数年で、状況はだいぶ変わってきたような感じがします。
特に、私が抗加齢医学会に関わりはじめ、脳のアンチエイジングなどのテーマでオーソモレキュラー療法の論文を発表するようになってから、医療業界での扱いが大きく変わりましたね。

Future Report研究員:アンチエイジングは今、もっとも注目されている分野ですからね。
だから先進的な治療を行うドクターたちは、みんなアンチエイジングの分野へ流れるんでしょうか。

溝口:そうかもしれないですね。
アンチエイジングの分野で情報を発信すれば注目も集めますし、ある程度、権威を認められるということもあるのでしょう。
ホッファーは、「価値ある発見を常識に変えるには40年かかる」と話しています。
でも、オーソモレキュラーが始まり50年、日本にオーソモレキュラー療法が入ってきて、すでに30年経っています。
もうそろそろ、常識に変わってもいいのではないかと思っています。

▼寝たきりの状態が、糖質制限とサプリで劇的に改善

Future Report研究員:最近は医師以外でもオーソモレキュラー療法に興味を持つ人が増えましたよね。
鍼灸師や整体師、トレーナーとか。

溝口:そうなんです。
私たちも医療関係者向けに加えて、一般の方向けのWeb講座をはじめています。
鍼灸師やトレーナーなど、健康産業に関わる方だけでなく、最近は主婦の方やOLの方なども受講する方が増えています。
また、オーソモレキュラー療法で病気を克服した方が、「どうして自分がよくなったのか知りたい」という理由で勉強されることも多いですね。

Future Report研究員:食の安全が社会的なテーマになっている現在、栄養学を勉強したいという方は、とても増えていますよね。
でも、従来の栄養学はカロリー重視だったりして、古すぎるという見方もあります。

溝口:最近、正しい栄養学を学びたいというニーズがとても高くなりましたね。
さまざまな健康情報が溢れている現在だからこそ、正確な情報が欲しいのだと思います。
どの油がいいとか、タンパク質はどれくらい必要だとか、そうした知識は一生役立ちますし、家族などの健康維持にも有効ですから。
オーソモレキュラー療法の効き目を一番実感しているのは、当然ですが患者さんご自身です。
だから、「なぜ自分がこの療法でよくなったのか」と突き詰めて考えたくなるのも当然かもしれません。
今、このクリニックのマネジャーを務めている関口さんも、実はオーソモレキュラー療法で病気を克服し、その後に講座を受講したひとりなんですよ。

関口:実は、私自身がオーソモレキュラー療法で病気を治したことがきっかけで、もっと栄養学を学びたくなったんです。
今はまったく問題ありませんが、体調維持やアンチエイジングのためにオーソモレキュラーを日常に取り入れています。

Future Report研究員:関口さんはどんな病気で、いつ頃から治療を開始されたのですか。

関口:クリニックを初めて受診したのは2011年。
子どもを出産したあと、ものすごく体調が悪くなって、ついに寝たきりの状態になったんです。
初めは産後うつだと思っていたのですが、すごく痩せて、食事もまったく取れなくなってしまいました。
しかも、当時はマクロビ食を実践していたので、慢性的なタンパク質不足に陥っていましたし、低血糖症で、血糖値の乱高下もひどかったんです。
2時間何も食べないと心臓がドキドキして平常でいられなくなるくらい。

Future Report研究員:それは深刻な状況ですね。

関口:先生に診察をしてもらったところ、この体調不良は間違いなく栄養不足からきているということがわかりました。
自分では精神の病気だと思っていたのでびっくりしました。

Future Report研究員:どうやって治療を行ったのですか。

関口:まずは完全に糖質を制限しました。
あと、腸内環境がすごく乱れていたので、グルテンとカゼインを控えました
マクロビ食のためにタンパク質が大幅に不足していたため、積極的にタンパク質を取ろうとしたのですが、腸が肉を受け付ける状態ではなくて、先生に「食べられません」と泣きながら訴えたこともあります。
プロテインについても「お腹が張って飲めません」と先生に泣きつきました。

Future Report研究員:食事量の不足はサプリで補ったのですか。

関口:もう、普通じゃ考えられないくらいの量のサプリを飲みました。
特に、鉄分が不足していたので、少しずつ食べられる量を増やしながら、サプリも並行して活用しました。
初めは血糖値の乱高下がひどかったのですが、亜鉛の摂取量を思い切って増やしたところ、明らかに乱高下が少なくなったんです。
体内の亜鉛量を調整するとインスリンの分泌がうまくいくので、ある程度食べなくても血糖値の乱高下を抑えることができるようになったようです。

Future Report研究員:なるほど。
状態を見ながらサプリの量を最適化していったのですね。

関口:長い間運動をしていなかったので、筋肉がかなりやせ細っていました。
ある程度体力が戻ってきた頃、先生に「そろそろ運動を再開してもいいよ」と言われたので、加圧トレーニングを開始。
短時間のトレーニングで効率よく筋肉を鍛えたことで、食事をしても血糖値が上がりづらい状態になりました。

Future Report研究員:寝たきりの状態からそこまで回復するのに、どれくらいの時間がかかったのですか。

関口:寝たきりの状態から起き上がれるようになるまでは、約2カ月。
全快するのに約2年かかりました。

溝口:関口さんはとても真面目で、集中して治療に取り組んだから、2カ月で寝たきりの状態から回復できたんですよ。
とにかくオーソモレキュラーによる治療は、最初の3カ月でどれくらい回復できるかが勝負なんです。
そこでサプリを最適量投与して体調を大きく改善しておくと、そのあとの回復がスムーズになります。
はじめはサプリを多く投与していたとしても、徐々に減らすことができるようになります。

▼血糖値の乱高下が精神疾患を招く

Future Report研究員:現在は、どのように食事をコントロールしているのですか。

関口:今は糖質制限だけです。
治療を始めた頃はものすごい量のサプリを飲んでいましたが、今はちょっと体調を崩したなという時にビタミンB群を飲むくらい。
オーソモレキュラー療法を勉強したこともあって、自力で調整できるようになりました。

Future Report研究員:うつ病などの精神疾患に糖質制限が効果的なのは、どうしてですか。

溝口:うつ症状を招く主な原因は、血糖値が不安定になることです。
もともとうつ病と糖尿病には深い関わりがあることがわかっていて、糖尿病の患者さんにはうつ病が多いことも、反対に、うつ病の患者さんには糖尿病が多いこともわかっています。
血糖値とうつ症状の相関関係については、まだ医学的に判明していませんが、ストレスによって起こる体の反応や、乱れた食生活も関係しているでしょう。
また、うつ病になると生体の防衛反応としてコルチゾールが分泌されますが、これがアドレナリンの分泌を促し、ストレスから体を守る働きをしてくれます。
しかし、コルチゾールはインスリンの働きを弱める性質もあり、このため、うつ病など精神的ストレスが大きくなると、血糖値が高くなると言われています。

Future Report研究員:うつ病と糖尿病は、鶏と卵の関係と似ていて、どちらが先でももう片方を併発しやすいということですね。

溝口:それから、うつ症状の裏には低血糖症が隠れていることが多いということもわかっています。
低血糖症とは、名前から「血糖値が低い状態のこと」と想像しがちですが、実は、「血糖値を調節できず、安定した血糖値を維持することができない」という
状態のことを意味します。
通常は食後、血糖値は緩やかに上がって緩やかに降下するというのが健康な状態で、食後3~4時間経てば血糖値は平常値に戻ります。
しかし、低血糖症の場合は食後に血糖値が急激に上がってから再び急激に落ち込み、その後はずっと低い値で推移する、そしてまた食事をとると急激に上昇す
る、というように、乱高下を繰り返すのです。

Future Report研究員:血糖値が乱高下する原因は、やはり食事内容ですか。
乱高下を招く食事とは、どのようなものなのでしょうか。

溝口:甘いものや炭水化物など、糖質を多くとる食事が大きな原因です。
そういう食生活をしている人は、自覚症状の有無に関わらず、誰でも低血糖症である可能性があります。
血糖値が安定していれば精神状態も落ち着いていますし、やる気や集中力なども自然と起こります。
しかし血糖値が乱高下すると、イライラや不安が募るようになり、うつ状態になることが多いのです。

Future Report研究員:自分が低血糖症かどうか、どうやってわかるのですか。
通常の健康診断で行う血液検査では、空腹時の血糖値しか測定しないため、なかなか自覚することが難しいと思うのですが。

溝口:そこが低血糖症の怖いところで、健康診断では判明しませんし、HbA1cが正常でも、食後の血糖値の細かい推移を見なければ、健康かどうか判断すること
はできません
低血糖症か診断するには、空腹時だけでなく、食後の血糖値を測定しなければならないのです。
当院では通常の血液検査に加えて、ブドウ糖を摂取したあと、5時間にわたって血糖値を測る5時間糖負荷検査を行っています。
こうした検査により、自分が低血糖症かどうか、判断することができるのです。

(つづく)


マリヤ・クリニックの柏崎良子院長の著書もおすすめです。柏崎先生のクリニックも当初はかなりバッシングを受けていましたが、精神疾患治療の実績などから今では多くの医師らが見学に来るように…。 

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