2012年4月23日月曜日

シェーナウからのメッセージ: 原子力に反対する 100 個の十分な理由



ツイッターで流れていた「原子力に反対する 100 個の十分な理由」のドキュメント(PDFはこちら)。自分たちで原発を拒絶し、大手電力会社と闘って、再生可能エネルギーを中心に、エネルギー自治を勝ち取った人口2500人のドイツの小さな町、シェーナウからの贈り物。拡散のため、ブログ記事として貼りつけます。

よくこれだけ百害あって一利なしと言っても過言ではないものと、私たちは騙されたまま共存してきたことだと、呆れます。運営者らは危険を知っているので遠方に住んでいるわけですね。編集していてムカムカきました。

いずこも同じ。海外の知人友人らが今でも、311までの自分程度の感覚しかないのかがよく理解できます。私自身チェルノブイリ事故もJCO臨界事故も、世界全体が病んでいるから起きたという事に気づきませんでした。

ですが、もう猶予はありません。東日本だけでも3千万を超える人口が被曝しました。太平洋プレートは活動期に入っています。国内に存在する燃料棒だけでも地球が破壊できるほど。そして昨夜、1キロ先の住宅の窓ガラスを割った爆発により、「化学工場」と称する山口県岩国の三井化学の工場には劣化ウランが71.1トン(約3400本)も所蔵されていることがわかりました。(劣化ウランに関しての必読書はこちら⇒「内部被曝の脅威」by肥田舜太郎医師・鎌仲ひとみ監督共著)

核廃絶のために闘わなければ、核に殺されます。


[引用ここから:]
原子力に反対する 100 個の十分な理由
~100 gute Gründe gegen Atomkraft~
An initiative of Elektrizitätswerke Schönau
www.ews-schoenau.de
www.100-gute-gruende.de

#1~#11 燃料とウラン採掘 

#12~#19+#102 安全基準と健康被害

#20~#41+#103~#107 事故と大災害のリスク

#42~#65+#108~#113 核廃棄物と処分

#66~#71+#114 気候保護と電力供給

#72~#79 権力と利権

#80~#87+#115 自由と民主主義

#88~#93+#116 戦争と平和

#94~#100 エネルギー革命と未来


日本の読者の方々に
福島の原子力発電事故は、私たちにこの冊子を日本語に翻訳することを思い立たせました。
ここに記した数多くの数値やデータは、ドイツの原子力発電所に関するものですが、事実は世界中どこでも同じです――原子力エネルギーは危険であり、非民主的で、高額で、不要なものです。この小さな冊子が日本において、原子力に反対する市民運動に少しでも力を与え、支持するものであれば幸いです。

日本にお住まいの方で、地震に、津波に、そして原子力災害で悲惨な目に遭われたすべての方々に、私たちから心からのお見舞いを申し上げます。
自然災害による脅威は、この先も私たち人間が完全に管理することはできないでしょうが、日本において原子力は私たち人間で終りにすることができます――この道を進まれ、幸運を心から願っています!

みなさまのことを心から想って、
ウアズラ・スラーデク(Ursula Sladek)
EWS シェーナウ電力会社代表


#1~#11 燃料とウラン採掘 [目次へ戻る]


#1  依存

すべてのウランは輸入されなければならない。
ヨーロッパ全土では、チェコとルーマニアの鉱山においてのみ、 少量のウラン産出が行われている。ドイツでは 1991 年以降、実質的にウランは産出されておらず、フランスでは2001 年から産出はない。
原子力による電力は、「自国産」のエネルギー源ではない。原発は資源の輸入と多国籍コンツェルンへの依存度をますます強める――世界のウラン産出の 3 分の 2 は、4 つの巨大鉱業会社の手中にある。

#2  強制移住

ウラン産出は数多くの人びとの生活基盤を破壊する。
世界のウラン資源の約 70%は、いずれかの住民コミュニティがすでに居住しているエリアに存在する。ウラン産出は農村を破壊し、牧草地や田畑を奪い、周辺の水源を汚染する。ニジェール政府だけでも、2008 年に外国の投資機関に対して、広大な北部の土地における 122 のウラン産出の採掘権を与えた――ここに住むトゥアレグ人のことなど考慮なしに。数多くのウラン産出地域においては同じように、土地の強制徴収と移住を人びとに強要する。1996 年 1 月 26 日にインドのチャティコチャ村での事件のように――警察支援の下、採掘を担当する企業のブルドーザーは、さらなるウラン採掘場所を確保するため、事前警告なしで家屋や納屋、田畑を押しつぶした。

#3  水の浪費

ウラン採掘は貴重な飲料水を奪う。
鉱石からウランを取り出すために大量の水が必要とされる。しかし多くのウラン採掘地域で水は不足している。ナミビアの水道会社「NamWater」が先だって試算したところ、ナミビアで計画されているウラン鉱山が稼働すると、年間 5,400 万㎥の水が不足することになり――それはオマルル・オムデルのデルタ地帯全体で取水できる量の 11 倍にもなる。鉱山およびウラン精製施設における莫大な水需要は、現地の住民・家畜・農業との間で水の奪い合いを発生させる。

#4  放射能の汚泥湖

ウラン鉱山業からの強毒性の汚泥は、住民と環境を脅かす。
ウラン含有量が 0.2%の場合、ウラン鉱石 1 トンごとに 998kg の毒性汚泥があとに残され、窪地や人造湖に溜められる。このいわゆる「選鉱くず」には、ウラン鉱石の 85%にあたる放射線と、ヒ素など多数の強毒性物質が含まれる。選鉱くずからの放射性物質は数千年以上にわたって大気と地下水を汚染し、堰の決壊や地滑りは破局的な被害を引き起こす。モアブ(ユタ州/USA)のアトラス鉱山における汚泥貯蔵湖からは、十数年にわたって毒性・放射性のある物質が地下水と 1,800 万人に飲料水を供給する近くのコロラド川へと漏れ出している。カザフスタンでは乾燥した選鉱くずからの放射性物質が、15 万人が住むアクタウ市を脅かしている。また国連の見解によると、キルギスの狭い谷間にある無数の放射性汚泥の廃棄所は「国際的な大災害を引き起こす可能性」があるとされている。

#5  鉱山による癌

ウラン鉱山業は癌を引き起こす。
ウラン坑とその廃棄物の埋立場からの放射性・毒性物質は、そこでの従業員と周辺住民を病気にし、癌の発症率を上昇させる。旧東ドイツのヴィスムート・ウラン鉱山では、約 1 万人の元作業員が放射線被害による肺ガンを発症した。キルギスのウラン鉱山町マイルースー市の住民においては、同国の他地域に比べ 2 倍の頻度で癌が発症している。1955 年から 1995 年にかけてグランツ村(ニューメキシコ州/USA)のウラン鉱山で働いていた労働者には、これらと同じように癌発症率と死亡率が高いことが研究によって証明されている。ウラン鉱山産業における重大な健康被害の数々は、ニューメキシコ州のナバジョで、ポルトガルで、ナイジェリアで、そして他の数多くのウラン鉱山地域で明らかになっている。

#6  死の大地

ウラン採掘は死の大地を生み出す。
ウラン鉱石のほとんどは、およそ 0.1%から 1%のウランしか含有しないし、ときには0.01%しか含まないものもある。1 トンの天然ウランのためには 100 トンから 1 万トンの鉱石が必要となる。それら鉱石は、採掘し、その後加工されねばならず、最終的に毒性を帯びた汚泥として数万年もの間、安全に保管されなければならない。さらに、ウラン含有量が少ないため加工、精製すらされない土砂も数百万トン単位で発生する。ウラン鉱石の何倍にもなるこれらの大量に採掘された土砂は、やはり同じように放射線を発する。アメリカの元大統領ニクソンは、広範囲、および長年にわたる汚染のために、ウラン採掘跡地を 1972 年に国の犠牲地域、いわゆる「National Sacrifice Areas」に指定した。

#7  高価な汚泥

ウラン採掘跡地の汚染処理には数億ユーロの費用を必要とする――そもそも、それが可能であればの話だが。
ウラン鉱山業は莫大な汚染を残す――毒性・放射性の汚泥でいっぱいの湖沼、放射線を発する瓦礫による山々。数千年以上にもわたりそれらは、地下水・飲料水をおびやかし、大気を汚染し、健康被害を与え続ける。鉱山業を営む巨大コンツェルンは、ウラン採掘によって巨利を得る。しかし、安全対策や汚染地域復旧などの処置のため発生する事後コストは、その大部分を市民が賄わなければならない。アメリカでは、たった 1 つのウラン鉱山における、たった 1 つの汚泥貯蔵地の汚染を処理するために、10 億ドルもの税金が投入された。旧東ドイツのウラン鉱山跡の処理には 65億ユーロもの費用が発生した――コスト抑制のために旧東ドイツの厳格でない放射線防護基準に従ったにもかかわらず。ウランが採掘される多くの国々では、そもそも、そのような復旧費用を捻出することは不可能であり、汚染の処理は行われない。

#8  ウランの欠乏

ウラン鉱山はすでに 20 年来、原子力発電所の需要を満たせていない。
1985 年以降毎年、原子力発電所ではウラン鉱山が採掘するよりも明らかに多くのウランを消費している。2006 年において、世界中のウラン鉱山を合わせても、原発が必要とするウランの 3 分の 2 の量しか産出していない。原子力発電所の運営者は、これまでこの燃料不足分を、民間および軍事部門の在庫を取り崩すことでまかなってきた。しかしこれも尽きようとしている。すでに存在する原子力発電所の燃料供給を確保するだけでも、ウラン産出量を数年のうちに 50%以上増加させなければならない。そのためには無数の新規ウラン鉱山の営業を開始させる必要がある――人間と環境に多大な被害をもたらしながら。

#9  埋蔵量の限界

ウラン埋蔵量は、わずか数十年のうちに枯渇する。
埋蔵量が豊富で採掘しやすい場所のウラン鉱床は、世界中でもうすぐ枯渇する。同量のウランを得るためには、今後、掘り返さなければならない土砂・岩石の量は増えるばかりだ。そのためコストはかさみ、環境被害も急増する。すでに知られている全てのウラン鉱山を採掘したとしても、現状の約 440 基の原子力発電所の需要を、45~80 年しか満たすことができない。さらに多くの原子力発電所が追加されたなら、ウランはより短い時間で枯渇する。

#10  ウランの輸送

六フッ化ウランが絡む事故は破局的な大惨事を招きかねない。
ドイツ、ヴェストファーレン地方のグローナウ市にあるウラン濃縮プラントは、ウランを六フッ化ウラン(UF6)に加工する。この非常に毒性・放射性の強い物質は、鉄道、トラック、そして船によって毎週のようにヨーロッパを、大都市や人口密集地域の中も横切って自由に移動している。事故や火災によって輸送容器は破裂する可能性があるが、そのときは放射線を発する中身が周囲に拡散し、地域は汚染される。そして六フッ化ウランは空気中の水分と反応し、毒性と刺激性の非常に強いフッ化水素となり――周辺数 km の範囲内は、人間と環境に致命的な危険がおよぶ。

#11  プルトニウムの輸送

核燃料棒の製造のために毎年何トンもの純粋な、兵器になりうるプルトニウムがヨーロッパの道路を走りまわっている。多くの原子力発電所は二酸化ウランと二酸化プルトニウムの混合物である MOX 燃料を燃やしている。後者はほとんどの場合使用済み燃料の再処理からやって来る。約 7kg のプルトニウムで原子爆弾 1 つの製造に十分であり、数マイクログラムを吸い込むと癌を確実に発生させる。フランスとベルギーの MOX 燃料製造工場には、年間数トンの純粋な酸化プルトニウムが納品されている――高速道路上をトラック輸送によって。



#12~#19+#102 安全基準と健康被害 [目次へ戻る]


#12  癌の危険性

原子力発電所は子供だけを病気にするわけではない。
子供が住んでいる距離が原子力発電所に近ければ近いほど、癌になる危険性が高まる。ドイツでは原子力発電所の 5km 圏内に住む 5 歳以下の子供は癌になる確率が、ドイツ全土の平均値より 60%高い。なかでも白血病の発症率は倍以上(+120%)になる。白血病はとりわけ放射線によって引き起こされやすい。アメリカの調査データでは、核施設周辺の大人も癌になる確率が高いと推測されている。

#13  汚染物質の排出

原子力発電所は大気へ、水中へと放射性物質を排出している。
全ての原子力発電所は排気口と排水管を備えている――トリチウム、炭素、ストロンチウム、ヨウ素、セシウム、プルトニウム、クリプトン、アルゴン、キセノンなどの放射性物質の排出のためだ。それらは大気中に分散し、水中、地中に留まる。さらに堆積し、濃縮され、生物に取り込まれ、一部は細胞に組込まれる。そこでそれらの放射性物質は、とりわけ癌を誘発し、遺伝子を傷つける。
この排気と排水による放射性物質の排出は政府によって公に認められている。通常1000 兆ベクレルの放射性の希ガスと炭素、50 兆ベクレルのトリチウム、300 億ベクレルの放射性微粒子、約 100 億ベクレルの放射性ヨウ素 131 の排出が許可されている。もちろん 1 年間に、1 つの原子力発電所あたりの話である。

#14  欠陥ある安全基準

放射線防護の安全基準は放射線による被害を甘んじて受け入れている。
今日においてもなお核施設で容認される放射性物質の排出量は、架空の「標準値人間」に基づいている。彼はいつまでも若く、健康で男性であるのが特徴だ。彼より歳を取っている高齢者、女性、子供、幼児、胎児は、ときには明らかに放射線に敏感に反応することなど考慮されていない。
国内外の放射線防護の安全基準は、はじめから放射線による住民への健康被害を容認している。「原子力エネルギー拡大戦略のための理性的な余地」を確保するために。

#15  低線量の放射線

低線量の放射線被爆は、公的な想定よりも危険だ。
非常に低いレベルの低線量被爆であっても、健康被害は発生する。これは様々な国の、様々な核施設の従業員に対する一連の調査結果がそれを示している。これらの研究は、今なお広く信じられている低線量の被爆はごく僅かの影響、全くの無害、あるいはそれどころかポジティブな効果すらあるという思い込みを覆している。保守的であると評価されるアメリカの「National Academy of Science」でさえも近年では、低線量被爆が有害であることを認めている。原子力発電所周辺に居住する子供の癌の発生率が高いこともこれで説明できる。

#16  トリチウム

原子力発電所からの放射性廃棄物は、DNAにまで組み込まれる。
核施設は大量の放射性水素(トリチウム)を大気や水中に放出する。人間、動植物は呼吸と食料、栄養を通してそれを摂取する。身体はトリチウムとトリチウムを含む水を通常の水素や水と同様に、すべての内臓器官に取り入れ、遺伝子にまで組み入れる。そこで放たれる放射線は、病や遺伝子障害を引き起こす可能性がある。

#17  河川の高温化

原子力発電所からの温排水は魚から酸素を奪う。
原子力発電所はエネルギーを浪費している――原発はとりわけ(発電以上に)33℃までの温排水によって、まずは河川を温める。これは魚に 2 重のダメージを与える。まず 1 つ目に、温かい河川の水は、冷たい水に比べて酸素の含有量が少ない。2 つ目に、温かい水ではより多くの植物や小動物、プランクトンが死滅し、この有機物の腐敗の過程で酸素をさらに消費する。そうして魚のための酸素が不足する。

#18  放射能の汚れ仕事

原子力発電所では何千人もの非正規労働者が汚れ仕事を処理している――多くの場合、放射線防護の安全措置が十分でないまま。彼らは派遣会社に登録され「火急」の際に駆り出される――何千人もの非正規労働者は原子力発電所の最も放射線が強い区域で、清掃や汚染除去、修繕作業で給与を得ている。ドイツ連邦環境省の 1999 年の統計によると、彼ら非正規の労働者は、正規の従業員よりも数倍高い放射線被曝を受けている。フランスでは彼らを「放射能の餌」と呼んでいる。これら非正規の労働者たちは、破れていたり、埃が立つ放射性廃棄物入りの袋を担いだり、放射線を放つコンテナの横でコーヒー休憩を取らされたり、完全防護服を着用しないで原子炉の中心付近での作業をさせらりたりしたことがあると報告している。中にはあらかじめ線量計を外して作業している者もいる。なぜなら最大被曝線量に達したら、そこでの職が終わってしまうからだ。結局のところ、誰も職を失いたくはない。

#19  自己防衛

原子力発電所を運営する電力コンツェルンの上層部のエリートは、私生活において自身は原発から大きく離されたところで生活している。EnBW、E.ON、RWE、そして Vattenfall の役員たちは、職務上では原子力推進のために激しい戦いを続けている。ただし、彼らは私生活ではできるだけ距離を取る――ハンス=ペーター・フィリス、ユルゲン・グロースマン、トゥオモ・ハタカらは自身の住居を自社の原子力発電所から遠く離れたところに選んでいる。

ボーナス  #102  チェルノブイリ

チェルノブイリの原子炉事故は数え切れないほど多くの人びとの生活を破壊した。チェルノブイリ原子力発電所(ウクライナ)での破局的な大災害の後、ソビエト連邦は約80 万人の「リクビダートル」を災害警防と処理作業のために派遣した。そのうちの 90%以上が現在では傷病者である。原子炉事故から 20 年経過した現在までに、「リクビダートル」として派遣された父親が傷病で死亡したため、1 万 7 千のウクライナの遺族は国からの保護を受領している。1990 年から 2000 年の間に、白ロシア(現ベラルーシ)における癌発症率は 40%上昇し、WHO はホメリ地方だけでも 5 万人の子供たちが生涯の間に甲状腺癌を患うであろうと予想している。流産、早産、死産が事故の後、劇的に増加している。原子炉付近に住んでいた 35 万人の住民は、永久に自身の故郷から引き離された。

1,000km 離れたバイエルン州内でさえ、放射線障害を原因とした 3 千件におよぶ奇形出産が発生してる。チェルノブイリ後、多くのヨーロッパの国々で幼児死亡率がおよそ 5 千人分ほど増加している。遺伝子の損害などによる次世代への負担は、事故の数多くの他の影響と同じようにまったく調査しきれていない。確実に分かっていることは、1986 年の大事故は、まだまだ終わっていないということだけだ。


#20~#41+#103~#107 事故と大災害のリスク [目次へ戻る]


#20  安全性の欠陥

ドイツにある 17 基の原子力発電所のうち 1 つとして、今日では営業許可を得られない。防護壁能力の不足、貧弱な電気回路、老朽化した鋼鉄――本来、連邦憲法裁判所が判決で要求している安全の水準、つまり学問上、技術上においてその時代毎に妥当だと考えられる安全基準を満たしている原子力発電所は、今のドイツには 1 つもない。数百万ユーロもの高額な追加安全装備も話にならない。明白な安全性の欠陥により、ドイツの 17 基の原子力発電所はすべて、再度、新設としての許可を得ることはできない。

#21  老朽化のリスク

原子力発電所を使えば使うほど、事故の危険性は増大する。機械や電気部品の耐久性は永遠ではない。とりわけ原子力発電所においては著しく老朽化する。配管は脆くなり、制御装置は故障し、バルブやポンプは動作しなくなる。亀裂は広がり、金属は腐食する。デービス・ベッセ原子力発電所(オハイオ州/USA)では、16cm の厚さの鋼鉄で作られた原子炉圧力容器を貫いて、誰も気づかないまま穴が開いた。内側に取り付けられた薄いステンレス層が漏水を防ぐのみであった。
原子力発電所を長く使えば使うほど、そして古くなればなるほど、事故のリスクは増大する。それは報告義務のある事故・故障の届け出の統計からも読み取ることができる――ドイツの原発、ビブリスやブルンスビュッテルのような古い原子炉では、新しいものよりも明らかに頻繁に事故・故障が発生している。

#22  報告義務ある事故・故障

3 日に 1 度はドイツの原子力発電所のどこかで、「安全性にかかわる」事故・故障が発生している。ドイツ連邦放射線防護局にある事故・故障の報告窓口には、ドイツの原子力発電所の安全性にかかわる重大な事故・故障の報告が、毎年 100~200 件届けられている――1965年から合計するとその数約 6,000 件。毎年、これらの届出のうち、重大災害に発展する可能性を持った事故・故障が数件含まれている。これまでドイツで破滅的な大災害が発生しなかったのは、単に偶然と幸運が重なったからである。

#23  スペア不足

原子力発電所での修理作業においては、簡単に新たなミスが発生する。
現在稼働中のドイツの原子力発電所は 1974 年から 1989 年の間に営業運転をはじめている。多くの修理部品は今では製造されていない。それゆえ、修理時には代替部品を作らなければならない。これはリスクの多大な作業であり、なぜなら、もし製造したスペア部品が何らかの理由でオリジナルの部品と全く同様に作用しない場合は、重大な結末をもたらす可能性があるからだ。

#24  石器時代の技術

30 年前の技術とは一言で言うと、廃棄するにふさわしい。
現在でもなお稼働しているドイツの原子力発電所は、1970 年から 1982 年の間に建設工事が開始された。理性ある人間であれば、1970 年製造の VW-411(フォルクスワーゲン)のような車を「最新の安全技術水準」であるとは絶対に言わない――もし、その車が今日までの間にバンパーを取り替えたり、ブレーキを交換したり、シートベルトを取り付けたとしても。もし誰かが、ホームコンピューターCommodore-C64(1982~83 年製造)を今日のスタンダードに改造すると言ったなら、間違いなく声の限りに嘲笑われるだろう。原子力発電所においてのみ、原発事業者の見解では、こうしたことは問題ないとされている。

#25  地震の危険性

原子力発電所は十分に地震対策がなされていない。
フライブルク市近郊の原発フェッセンハイム、カールスルーエ市近くの原発フィリップスブルク、ダルムシュタット市付近の原発ビブリス――これら 3 つ全ての原子力発電所は、ドイツで地震活動の最も活発な地域であるオーバーライン低地の上に建っている。しかし、それらは他のドイツの原子炉と同じように、地震に対して簡単な備えしか持たない。原子力発電所フェッセンハイムは、1356 年にバーゼル市を壊滅させた規模の地震発生時には、震源が 30km 以上離れていなければ持ちこたえることができない。地震のほうが原発の事情にあわせてくれるのだろうか?原子力発電所ビブリスは、1.5 m/s2の重力加速度までしか耐えられない。ただし地震学者は、マンハイム市ととダルムシュタット市の間のエリアで明らかにそれを上回る強い揺れを予測している。原子力発電所ネッカーヴェストハイムが建つ石灰層の地下では、地下水が浸食し、最大 1,000 ㎥もの新たな空洞が開けられている。

#26  航空機墜落

原子力発電所は航空機の墜落に対して守られていない。
ドイツにある原子力発電所は 1 つとして、燃料満タンの旅客飛行機の墜落に耐えることができない。これは、原子炉安全協会が――当初は極秘資料として――連邦環境省依頼の専門家鑑定に記されている。それどころか 7 つの原子炉はかなり薄いコンクリートの壁を持つだけで、戦闘機の墜落や戦車装甲を貫通する兵器でさえ、破局的な大災害を引き起こすことができる。

#27  すでに倒れゆく新型原子炉

新型の原子炉でさえ、安全でない。
フランスの原子力コンツェルン AREVA が現在、フィンランドとフランスで建設中の自称、最新型の欧州加圧水型原子炉(EPR)であっても、炉心溶融にいたるまでの重大な事故は起きうる。その場合、大量の放射性物質が周囲に撒き散らされる。原子炉を稼動させ、非常時には安全に停止に導く EPR の操作管理技術に対して、フィンランド、イギリス、フランスそれぞれの原子力安全監督官庁は、リスクが多大であり、それゆえ共通の声明を出すことでこれに反対している。単純な航空機墜落に対してさえ、自称では格段に安全だと唱えられている新型原子炉は防護されていない。フランス政府は、この新型の建設を中止する代わりに、危険だとする専門家による鑑定書を軍事機密として封印した。

#28  保険

車 50 台分の保険の補償額のほうが、1 基の原子力発電所の保険よりも手厚い。
ドイツの原子力発電所の破局的な大災害は、健康被害、物損、資産の損害など合計 2.5~5.5 兆ユーロ規模の被害を発生させる。これは Prognos 研究所が 1992 年に当時ドイツ自由民主党(FDP 党)が大臣を務めていた連邦経済省依頼の専門家鑑定の中で、試算した数字である。
ドイツで原発を稼動する全ての事業者が加入している損害賠償保険は、合計最大で 25億ユーロまでカバーされているが――これは想定される被害額の 0.1%でしかない。原子力発電所の駐車場に停めてある車 50 台のほうが、原子力発電所自身よりも大きな補償額でカバーされている。

#29  破局的な大災害

破局的な大災害は、今日にでも起こりうる。
1989 年に行われた「ドイツ・原子力発電所の B 段階のリスク調査」では、西ドイツの原子力発電所において技術的な欠陥により起こりうる破局的な大災害のリスクを年間 0.003%としている。一見、小さなリスクに見える。しかし、EU のみにおいてでさえ、2007 年末の時点で 146 基の原子力発電所が稼働している。それぞれ 40 年間の稼動期間を想定すると、このリスクで見積もったとき、破局的な大災害の起こりうる確率は 16%を超える。ここには、さまざまな原子力発電所で発生しうる故障・事故のシナリオや原子炉の危険性を増大させる老朽化は全く考慮されていない――同様に、ハリスブルク(スリーマイル島)とチェルノブイリの原因となった人為的なミスもここには含まれてない。

#30  安全性ランキング

ドイツの原子力発電所の安全性は、あろうことか国際比較で低い。
ドイツの原子力発電所は「世界で最も安全性が高い」?それは間違っている! 1997 年に行われた OECD 諸国の国際的な安全性の比較において、ドイツで標準的な原発であると代表された原発ビブリス B は、炉心溶融の耐性で最悪の成績であった。

水素爆発の可能性がとりわけ高く、鋼鉄製の原子炉格納容器が極めて不安定であると、専門家は鑑定した。ビブリスでは「炉心溶融時に放射性物質が大量に拡散する危険性が格段に高い」とコメントされている。

#31  悪天候

単に嵐が来ただけで事故の危険性が高まる。
原子力発電所の停電、いわゆる外部電源喪失は、原子炉にとって最も危険な状態である。非常用電源が完全でなければ、冷却装置は停まり、炉心溶融の危機が迫る。この状態を引き起こすのは、単なる悪天候で十分だ。1977 年から 2004 年の間にこれまで 8 回、西ドイツの原子力発電所の重要な装置が雷または嵐で停止し、危惧されている外部電源喪失の緊急事態になった。そのうち 1977 年1 月 13 日に原発グントレミンゲン A では、修復不能な障害が発生した。洪水によっても危機は迫る――大西洋岸にあるフランスの原子力発電所ブライエは、頻繁に洪水で冷却装置の一部が停止している。

#32  金の亡者

原子力発電所において迷ったときの判断基準は――安全より利益優先――それが爆発事故の後であっても。
2002 年のはじめ、原発ブルンスビュッテルで安全検査をした一団はまさに「死人のような真っ青な顔」で原発から出てきた。彼らは原子炉圧力容器の脇の配管調査をした――配管というより、25 個の残骸であったが。2001 年 12 月 14 日、水素爆発によって、直径 10cmの配管(肉厚 5~8mm)の 3m 分が粉々に破裂した。当時の原発事業者 HEW(現 Vattenfall)は、「経年変化で発生したパッキンの漏損」であると申告し、その配管バルブを閉じたが――原子炉の稼動はそのまま続けられた。季節は冬のことであり(電力需要が大きいことから)、電力市場における電気価格は最高値を記録していた。州都キール市にある州の社会福祉・健康省(原発の監督官庁)が強い圧力をかけたことではじめて、HEW は 2 月中旬に原子力発電所の稼働を停止し、安全検査が実施された。その後、この原子力発電所は、13 カ月に及んで停止された。

#33  人為的なミスのリスク

人間はミスをする――それは原子力発電所では致命的となる。
バブルの開閉を間違う、警告信号を見落とす、スイッチを入れ忘れる、命令を間違って理解する、緊急時に誤った対応をする――技術的・施設面ではなく、人為的なミスが、原子力発電所においてはとりわけ危険な事態を引き起こす多くの原因となる。「人為的なミスのリスク」は事前に計算できない。そうした前提がありながら原発従事者という人間が、トラブル発生時には炉心溶融を回避するために、常時作業とは全く異なる非常に重要な緊急事態の対応を行うべきだという。原子力発電はミスしない人間を要求する。しかしそんな人間は存在しないし――とりわけ原子力発電所の非常事態などという極度のストレス下でミスをしない人間などいない。

#34  ホウ酸

原子力発電所を稼動する複数の事業者は、長年にわたって組織的に稼動の際の法令規定を無視している。
17 年間にわたり原発フィリップスブルクでは、十分なホウ酸濃度を緊急注水容器に準備しないまま稼働を続けた。それは、緊急時に炉心に注入されるべきものである。緊急注入水の中のホウ酸濃度が足りない場合、炉心への注水は「火にガソリンを注ぐ」ような効果を招く。原発稼動をする事業者はそんなことは気にしない。それどころか、彼らはむしろ意図的に、稼動の際のハンドブックにある規定を無視している。数々の調査は、他の原子力発電所においても長年にわたって、十分なホウ酸を準備しておらず、緊急の冷却システムが完全には機能しないことを報告している。

#35  スパゲッティ配線

原子力発電所における電気系統のトラブルは日常事であり、それは深刻な結末を伴う可能性もある。
2006 年の夏、欧州は崩壊寸前の危機に瀕した。配線設計の構造的な欠陥により、スウェーデンの原発フォルスマルクにおいて、ショートと停電した後に、非常用電源が始動しなかった。炉心溶融がはじまるまで、わずか数分しか残されていなかった。これは特殊なケースではない――原発ブルンスビュッテルにおいては、電気系統のミスが原因で、1976 年の営業運転開始以来、緊急冷却用装置の非常用電源が十分に機能していなかったことが判明している。さらに原発ビブリスでも同じように間違いと手抜き工事で施工された配線接続の数々が報告されている。

#36  チェルノブイリより悪い事態

ドイツの原子力発電所で破局的な大災害が発生すると、それはチェルノブイリ事故よりも大きな被害が出る。
ドイツの原子力発電所は、原子炉内に黒鉛を抱えていないため、チェルノブイリのように火を噴くことはない。それゆえ放射性雲が爆発後にそれほど高い上空まで運ばれることはなく、放射線量は数百 km の範囲内において強く増加する。ドイツの人口密度はチェルノブイリの地域より 7 倍高く、ライン-マイン地域のそれは約 30 倍だ。明らかにより多くの人びとが、より高い放射線量に犯されることになる。

#37  数百万人もの癌発症

ドイツの原子力発電所における破局的な大災害発生の際には、数百万もの人びとが著しい健康被害を覚悟しなければならない。
ドイツ連邦経済省が委託した調査では――チェルノブイリ事故の経験を考慮して――ドイツで重大な原発事故の後に想定される健康被害を試算している。例えば原発ビブリスで破局的な大災害が発生した場合、追加で 480 万人の癌発症者が見積もられている。加えて、放射線や避難、故郷の喪失によって直接的、もしくは間接的な健康被害の数々が加わる。

#38  故郷の喪失

破局的な大災害の際には、数千 km2 の区域に永続的に人が住めなくなる。
数百万もの人びとがドイツの原子力発電所において破局的な大災害が発生したとき、自身の家、住宅、仕事場に戻れなくなる。この人びとはどこで生活し、仕事をし、睡眠を取ることができるのだろうか? 誰が彼らの健康の面倒を見るのか? 誰が彼らの損害の補償を負うのか? これは電力コンツェルンでないことは確かで――なぜなら彼らはとうに倒産しているからだ。

#39  避難

ある地域全域の数時間以内での避難は不可能である。
原子力発電所の災害時退避計画では、放射線雲が事故の開始から数日間は原子炉内に押しとどめられると仮定している――住民が避難する時間として。しかし飛行機、地震、あるいは爆発が原子力発電所を破壊したらどうなのか? もしくは原発クリュメルのように、格納容器が数分で融解したら? そうしたケースでは、天候次第であるが、全地域の住民が避難するために数時間しか残されていない。新型の拡散予測システムは、25km 離れた場所でさえ、住居内に滞在していると数時間以内に、半数の住民が死に至る高さの放射線汚染量になることを示してる。放射線雲は周辺のみに留ることは絶対にありえない。しかし、それ以上遠く離れた地域には、避難計画すら存在しない。

#40  ヨウ素剤不足

ヨウ素剤を入手するために外出しなければならないのであれば、それは役に立たない。
ヨウ素剤は、原子力事故において放射性ヨウ素による放射線障害を緩和する。しかし、原子力発電所周辺の極めて狭い範囲にしか、万一の備えとして家庭に配布されていない。他の全ての地域ではヨウ素剤は市役所に保管されているか、もしくは事故の後で空輸しなくてはならない。入手するのは困難だ――なぜなら災害時避難計画では外出しないように指導している。

#41  経済の崩壊

破局的な大災害は、国民経済の崩壊を招く。
ドイツのような国における破局的な大災害は、2.5~5.5 兆ユーロの損害を引き起こす。これは Prognos 研究所が、すでに 20 年前にドイツ連邦経済省の委託研究で試算したものである。インフラを考慮すると、今日ではその総額は確実に上昇しているだろう。比較すると――世界の先進工業国上位 20 ヶ国における目下の経済危機緩和のための景気対策プログラムは、総額で 3.5 兆ユーロである。

ボーナス  #103  原子炉内のフェルト

剥離した断熱材が原子炉の冷却配管を塞ぐ。
小さな亀裂が 1992 年 7 月 28 日、スウェーデンの原発バーゼベックで破局的な大災害を引き起こしかけた。漏水が断熱材を剥離させ、細い繊維が原子炉に冷却水を循環させる配管内の濾過網に引っかかり、配管を塞いだ。この「濾過網の目詰り問題」は、他の原子炉でも緊急時に原子炉の冷却装置を麻痺させることが分かった。調査試験はさらに不安をあおる事実を示した――とりわけ細い繊維は濾過網を通過して、原子炉の内部まで入り込み、そこで小さなフェルト状に形成され、小径の冷却配管を塞ぐというのだ。2008 年末に、原子炉安全委員会はこの問題を根本的に解決する長年の努力は失敗したことを認めた。原発はそれでもなおすべて稼動している。

ボーナス  #104  貝と葉

ほんの少しの植物片でさえ、原子炉のメルトダウンの原因になる。
冷却システムの「ほんの一部の詰まり」が、フランス・アルザスの原発フェッセンハイムを2009 年末に緊急停止させた。ライン川からの多量の植物片が冷却循環の配管の奥深くにまで進入したからだ。原子力監督官庁は緊急対策本部を設置した。その直前にはすでにローヌ川からの浮遊物が原発クリュアの冷却装置を麻痺させていたからだ。さらにやっかいなのはタイワンシジミである。極東から持ち込まれたタイワンシジミは、今では中央ヨーロッパの河川で非常な勢いで増殖している。その小さな稚貝はどんなフィルターも通り抜けてしまう。スイスの原子力発電所の運営企業は高圧洗浄機を使用している。アメリカではすでに 1980 年に貝類のために 1 基の原子力発電所が操業停止に追い込まれている。

ボーナス  #105  現場での手抜き工事

フィンランドの原発工事現場では、(工事中の地盤没落大事故のあった)ケルン地下鉄の工事現場よりもひどい状態が続いている。60 カ国から 4,300 人の労働者がフィンランドのオルキルオトで「欧州加圧水型原子炉(EPR)」の試作品をどうにか稼動させようと躍起になっている。工事現場の現状は髪の毛が逆立つようだ――鉄筋コンクリートには一部の鉄筋が足りず、現場の親方は指揮下の労働者たちの言葉を理解しない、溶接部分がすぐに亀裂し、現場監督は欠陥部分をコンクリートで埋め隠してしまうことを命令する。それに加えて 1 日 16 時間労働、安すぎる賃金、雇入れと解雇の繰り返し――まさに「奴隷原子炉」の有様だ。フィンランドの原子炉監督官庁はすでに、土台に種類を誤って使用されたコンクリートに始まり、規定違いの手法で溶接された冷却システムの配管に至るまで、実に 3 千を超える建設工事の欠陥を記録している。

ボーナス  #106  非常な勢いで増加する亀裂

原子力発電所の重要な配管に、誰一人気づくことなく亀裂が走る。
原発ヴュルガッセンでのそれは廃炉を意味し、原発シュターデではそれは廃炉までの時間を早め、原発クリュメルと原発ブルンスビュッテルでは原子炉がそのために数年間停止した――ここで言っているのは、配管、容器、溶接部や水栓における亀裂のことである。これまでに専門家が過去数十年にわたって様々な鋼鉄の種類を亀裂耐久性があると証明しているが、これらの予測は常に誤りであったことが判明している。正確に分かっていることは、微小な亀裂でも、突然、急速に大きくなるということだけだ。それは、配管の破断と破壊を導き――炉心溶融への最高の条件となる。
特に不安なのは――これらの亀裂のほとんどは、偶然に発見されている事実であり――原発クリュメルのように、原子炉が長期間停止していた時に発見されることが多い。それ以外では、完全な検査のために時間を割くことはできない。

ボーナス  #107  安全追加対策

キリスト教民主同盟(CDU 党、保守大政党)でさえ、内部では古い原発の安全追加対策は、解決不可能であることを認めている。
2009 年のドイツ連邦議会選挙の 3 日後、CDU 党の州大統領のコッホ(ヘッセン州)とエッティンガー(バーデン・ヴュルテムベルグ州)は、CDU/CSU 党の上部に、長期間にわたる原子力発電所のより長い稼動への道筋を示すべき、広範囲におよぶ「原子力戦略とロードマップ」を送付した。この書類は古い原子炉の「安全性能の違い」、つまり欠陥をも指摘し――これらの欠陥は、膨大な費用をかけても直せるものではないと明らかに記載されている。加えて、「既存の原発施設のコンセプト自体の限界が、安全追加対策を限定的にする」と述べられている。


#42~#65+#108~#113 核廃棄物と処分 [目次へ戻る]


#42  核廃棄物の山

原子力は大量の核廃棄物を生み出す。
約 12,500 トンの高レベル放射性廃棄物である使用済み燃料が、これまでにドイツの原子力発電所で発生した。これに毎年約 500 トンが加算される。さらに数千㎥の低・中レベルの放射性廃棄物も加わる。ここには本来、大気中と水中に放出されたすべての量も加えるべきだろう。そして、再処理工場からの廃棄物。ウラン採掘時の廃棄物。ウラン濃縮工場からの务化ウラン。最後に原子力発電所自体――なぜなら、これもまたいつかは「処分」しなければならないからだ。16

#43  処分という嘘

これまで核廃棄物はただの 1g として無害に処分されていない。
「食品の鮮度を長持ちさせる用途に」核廃棄物は利用できるようになる――このような約束で専門家たちは、1950 年代半ばに核廃棄物処分への批判的な質問をかわした。そして核廃棄物の処分問題を気にかけることなく、次々と原発は建てられていった。数百万トンの放射性廃棄物は、今日に至るまで 1g として無害に処分されていない。法律上では、核廃棄物処分場が確保されない限り、ドイツではそもそも原子力発電所を稼働してはいけないことになっている。しかし「廃棄物処理の準備がある証明」として、地下水が浸入し、崩壊の危険にさらされた(低レベル)放射性廃棄物処分場アッセ II、ゴアレーベン岩塩採掘跡での処分場調査作業、ヴァッカースドルフ再処理工場の建設、他国への核廃棄物の輸送、そして使用済み燃料をキャスクで地上の格納庫に保管する「中間貯蔵施設」などが存在するだけである。

#44  技術面の未解決問題

高レベル放射性廃棄物の最終処分は、技術面ですら解決されていない。
核分裂の発見から 70 年経過した今でも、人間と環境に危害を与えないようにするために、「どのように」高レベル放射性廃棄物を処分するべきなのかさえ明らかでない――「どこに」などとは問いかけるべくもなく。原子力ロビーの思惑とは違い、該当する最終処分場に関する数多くの安全性についての疑問は、相変わらず全く明らかにされていない。それゆえアメリカでも、人間と環境に対す
る重大な脅威のために最近では、ユッカマウンテンにおける最終処分場プロジェクトを疑問視している。スウェーデンの花崗岩層における最終処分場構想も同じように中止直前だ(#61 を参照)。そしてゴアレーベンの岩塩採掘跡の空洞に迫っているのは――大きな範囲の地下水による浸水である。放射性廃棄物処分場アッセ II の浸水の経験によって、最終処分場としてのゴアレーベンの「適性」について、さらに議論すること自体、そもそも不要となった。

#45  百万年

核廃棄物とは百万年にわたる放射線危害である。
原子力発電所からの放射性廃棄物の放射線がある程度弱まるまで、およそ百万年かかる。それまで核廃棄物は人間と生物圏から隔離されてなければならない。もし仮に 3 万年前のネアンデルタール人が原子力発電所を使い、その核廃棄物をどこかに埋めたとしたら、その核廃棄物は今でも人間を死に至らしめる量の放射線を出し続けている――そして私たちは、絶対に掘り起こしてはならない場所を知るすべを持っていなければならない。

#46  放射性廃棄物処分場アッセ II

放射性廃棄物の試験処分場アッセは、20 年と経たないうちに水没しようとしている。
12.6 万個の(低レベル)放射性廃棄物のドラム缶を原子力産業と原子力研究者は 1967~78 年の間にほぼ無料で「試験的な(低レベル)放射性廃棄物の最終処分場」であるアッセ II に廃棄した。この岩塩採掘跡地は数千年は安全であると専門家は断言し、浸水の可能性は否定された。
その 20 年後、今では毎日 1.2 万リットルもの水がこの坑道に流れ込んでいる。これまでにいくつかのドラム缶は密閉性が無くなり、この岩塩採掘跡地は崩壊の危険にさらされている。そして今、大規模な地下水汚染を避けるために、これまでに投入した全ての廃棄物を再び取り出す事態となった。このための費用は――約 40 億ユーロまでの範囲だといわれているが――それを廃棄した事業者ではなく、納税者が負担することとなる。この処理のためだけに CDU 党(キリスト教民主同盟:保守)と SPD 党(社会民主党:中道左派)の連立政権は、原子力法を改正した。アッセ II は公的にはゴアレーベンの岩塩採掘跡の空洞に計画されている大型の(高レベル)放射性廃棄物の最終処分場のための「パイロット・プロジェクト」とされている。

#47  最終処分場はない

世界を探してもこれまでに、安全な高レベル放射性廃棄物の最終処分場は 1 つと存在しない。
核廃棄物の最終処分場は、非常に長い年月の間、地質が安定した場所に作られなければならない。この処分場の周辺地質は、処分された核廃棄物やその容器と科学的な反応を生ずるものであってはならない。さらにこの場所は生物圏や天然資源の埋蔵のポテンシャルがある場所、あるいは人間の影響から隔離しなければならない。そしてこの地域からの水は、海に流れてはならない。世界中でこれまで誰 1 人としてこのような場所を発見していない。そもそもこうした場所があるのかどうかすら全くの疑問である。

#48  聖フロリアヌスの原理(訳注:問題を他所に押し付ける行動様式、政治的手法)

誰1人として核廃棄物を歓迎しない。
2005 年以来、使用済み燃料は原子力発電所の敶地のキャスク倉庫に置かれている。このことは北の原発ブルンスビュッテルから南の原発イザールに至るまで、原子力推進派の多くを常に困難な説明責任の窮地に陥れている。核廃棄物は絶対に家の近所に貯蔵されてはならないと推進派が要求するのだ。(自治体にお金を運ぶ)原子炉は絶対に運転を続けろと言うのにもかかわらず・・・
キリスト教社会同盟(CSU 党、バイエルン州の保守大政党)も、電気なら絶対に原子力だと望む――しかし核廃棄物の処理は、決してバイエルン州の近くには望まない。最終処分場の候補地に関する議論について、彼らは「我々はドイツ全土に火をつけることになる」と警告している。

#49  キャスクの嘘

核廃棄物の容器は十分に検査されていない。
(使用済み燃料輸送用の)キャスクは安全だ、といわれている。しかしすべてのモデルが実際には検査を受けていない。多くの場合、縮小された試験用モデルが落下試験され、燃焼試験される。もしくはただのシミュレーション試験があるだけだ。しかし時には、そうした試験の結果ですら改ざんする――2008 年春の新作キャスクのシリーズのように。この製造者は、よりうまく試験の測定値と理論値が合致するように「任意で選択することのできるパラメーター」を採用した。これには連邦材料研究庁も度を超えていると判断。材料研究庁は差し当たり許可を拒み、それゆえ 2009 年はキャスク輸送を行うことができなかった。

#50  再処理工場の嘘(その 1)

いわゆる使用済み燃料からの再処理は、核廃棄物からより多くの核廃棄物を作り出す。
再処理工場――これはリサイクルステーションのようにも聞こえる。しかし実際は、使用済み燃料のうちの約 1%だけが新しい燃料に取り入れられる――それはプルトニウムだ。すべてを考慮すると再処理後には、処理前よりも多くの核廃棄物が発生する。それゆえフランスでは再処理工場のことを率直に「usine plutonium」、プルトニウム工場と呼んでいる。さらに再処理工場は、世界最大規模の放射性物質の拡散装置でもある。(再処理工場からのプルトニウムを混ぜた)いわゆる MOX 燃料は、製造、輸送、そして原発での使用時において、天然ウランからの燃料よりはるかに危険である。同時に「プルトニウム工場」は、原子爆弾のための原料を供給している。

#51  海岸線の核廃棄物

再処理工場は、放射性物質の拡散装置である。
ラ・アーグ(フランス)とセラフィールド (イギリス)の再処理工場は、大量の放射性物質を大気中やイギリス海峡、アイリッシュ海に放出している。施設の周辺では若者の白血病の発症率が国の平均よりも最大で 10 倍も多い。グリーンピースは数年前に、セラフィールド再処理工場の排水管付近でいくつかの泥のサンプルを採取した。帰国の際、それらはすべてドイツ当局によって即座に没収された――核廃棄物の持ち込みという理由で。

#52  再処理工場の嘘(その 2)

フランスとイギリスの再処理工場には、いまだにドイツからの膨大な量の核廃棄物が保管されている。
原子力発電の事業者は、過去数十年にわたって数千トンもの使用済み燃料をラ・アーグとセラフィールドの再処理工場に運び込んだ。現在までにその核廃棄物のごく一部が、キャスク輸送でドイツに戻ってきている。残りの大部分は、今も外国であるかの地に山積みだ。

#53  モアスレーベンの核廃棄物の山

旧西ドイツの原子力コンツェルンは、核廃棄物を旧東ドイツのモアスレーベンの処分場に平然と廃棄した。
80 年代後半に西ドイツの原子力発電所では核廃棄物のドラム缶が山積みになっていた。幸運なことにドイツ統一がやって来た――そして環境大臣アンゲラ・メルケルも東から。彼女は担当局のリーダーであるヴァルター・ホーレフェルダーとゲラルト・ヘネンヘーファーと共同で、原子力発電企業に対して核廃棄物を格安で旧東ドイツのモアスレーベンの最終処分施設に廃棄することを許可した。現在では、ここはすでに崩壊の危険があり、処分場の改修工事には 20 億ユーロを超える納税者の負担が必要だという。時は過ぎ、メルケルは首相になり、ホーレフェルダーは電力コンツェルン E.ON と原子力ロビー団体「Deutsches Atomforum」の代表になった。ヘネンへーファーは、2009 年の終わりから再び、連邦原子力監督機関の長に任命されている。

#54  コンラート坑道の核廃棄物の山

ザルツギッター市の真下に 865kg のプルトニウムが処分される予定。
ドイツ連邦放射線防護局は、865kg もの強毒性のプルトニウムを含む 30 万㎥の低・中レベル放射性廃棄物を旧鉱山のコンラート坑道跡に処分するつもりである――ザルツギッター市街地の真下に。コンラート坑道を最終処分場として利用する決定は、完全に政治的な理由による。はっきりとした基準による他の数多くの候補地との比較は、これまで 1 度も行われていない。「コンラート坑道」が、原子力産業の視点から魅力的だったのは、とりわけ核廃棄物の大きな容器もそのまま通すことのできる際立った大きさの縦抗であった。コンラート坑道の長期的な安全性予測のほとんどの根拠は、理論的な想定に基づいている。古い手法によるモデル計算は、今日の学問の水準とかけ離れている。

#55  中間貯蔵施設

高レベル放射性廃棄物は、少し設備を追加したジャガイモ貯蔵庫並みの倉庫に置かれている。
キャスクの中の核廃棄物は強く放射線を放出しているため、容器の外側はかなり熱くなる。中間貯蔵施設のゴアレーベン、アーハウス、ルブミン、そして原子力発電所敶地の中間貯蔵施設は、それゆえ大きな通気口があり、外気がキャスクを冷やすことができるようにしている。もしキャスクの 1 つでも密閉性が保証されない場合、放射線物質は、妨げられることなく外に拡散する。

#56  使用済み燃料のキャスク

キャスクは放射線を遮断しない。
2008 年秋の使用済み燃料輸送の際、環境保護団体は、近くを通過する核廃棄物のキャスク積載列車から警報が鳴るほどの放射線値を検出した。しかし当局は容器の積み替えの際、放射線測定という管理を放棄した――なぜなら自身で測定器を 1 つも用意できなかったからだ。中間貯蔵施設の運営組織 GNS は「従業員を不必要に放射線にさらしたくなかった」ため、測定器を用意しなかった。

#57  短時間の核廃棄物処理

核廃棄物が入ったキャスクは、公式には 40 年間の耐久性があるという。
原子力発電所は法的には、害の無い核廃棄物の処理が保証されてはじめて、稼動することが許可される。しかし核廃棄物は 100 万年にわたって放射線を出し続ける。環境から放射線を遮断するキャスクは、およそ 40 年間耐久性があると想定されている。公式にもそれでよしなのだ。

#58  専門家の口封じ

ゴアレーベンを最終処分場にするためにドイツ政府は、地質学者たちの口を封じた。
かつて国を代表する最終処分場の専門家であったヘルムート・レーテマイヤー教授は1983 年、数回にわたるボーリング調査で、氷期時代に生じた亀裂が走るゴアレーベンの岩塩採掘跡の岩盤は「生物圏への汚染を永続して隔離する」ことはできない状態だという結論に辿り着いた。彼と彼の同僚はそれゆえ、他の候補地のさらなる調査を推奨した。キリスト教民主同盟(CDU 党、保守大政党)と自由民主党(FDP 党)の連立政権政府はそれに異議を唱え、圧力によって専門家鑑定を消し去った。今日に至るまで CDU 党と FDP 党、原発ロビーは、ゴアレーベンの岩塩採掘跡地は最終処分場に適していると主張している。

#59  ゴアレーベンの浸水

ゴアレーベンの岩塩採掘跡地にも地下水がでる。
かつての「最終処分場の試験地」アッセ II の放射性廃棄物のドラム缶だけに水が押し寄せているのではない。ゴアレーベンの岩塩採掘跡地も乾いていないのだ。ここでの「坑道調査」の工事の際には、何度も地下水と水酸化ナトリウム溶液の浸水が起きており、連邦地質学・天然資源研究所は、そこに最大 100 万㎥の水酸化ナトリウム溶液がある場所を特定している。また岩塩層の上にもそれを保護する粘土層がなく――地上 300m の深さにゴアレーベン溝という亀裂が走り――この岩塩層は直接地下水とも通ずる。アッセ II と違いゴアレーベンの地下には、幸運なことにまだ核廃棄物は存在しない――住民たちの根強い反対運動によって。

#60  核廃棄物は最終処分場を破壊する

放射線は岩塩を脆くする。
放射線は岩塩を脆くする。このことをグロニンゲン大学のヘンリー・デン・ハルトク教授は証明している。ゴアレーベンで計画されているような岩塩の層の中に核廃棄物の最終処分場を建設した際の結末は、壊滅的でありうる。それに対して、該当する監督官庁はこれまでいかなる結論も出していない。岩塩層はもう 1 つの理由からも最終処分場として不適正との議論がある――可塑性のあ
る岩塩層はいずれ貯蔵室を圧迫し、中の容器は破裂するとの指摘だ。圧力によって常に層自体が上昇する。そして極度に水溶性でもある。加えてゴアレーベンの岩塩の中にも存在するカーナライト(光ろ石)は早くも 300℃で溶けはじめる――最終処分場では十分に到達する温度である。

#61 花崗岩層の亀裂

核廃棄物の処分には、花崗岩層でさえ動きすぎる。
これまで世界中で最も先駆的と見なされてきたスウェーデンの最終処分場のコンセプトでさえ、言葉通り「脆い」ものだと証明された。160 万年前から安定していると言われてきた原成岩においても、地質学者は地震の跡を検出した。過去 1 万年間にここでは 58 回の地震があり、うち最高がマグニチュード 8 に達している。幸運なことに、そのときにはまだ核廃棄物は投棄されていなかった。

#62  放射線の料理鍋

原子力発電所から鍋ができる。
「僕は昔、原子力発電所だったんだ」――こんな台詞がいつの日か鍋やフライパンを飾るのかもしれない。核施設の廃炉コストを抑えるため、ドイツ社会民主党と緑の党の連立政権は放射線防護政令を緩和した。放射線を帯びた原子炉の解体瓦礫の大部分は、今では家庭ゴミと同様に処分したり、リサイクルしてもよいことになった。イタダキマス!

#63  ロシアに押し付ける核廃棄物

グローナウ市のウラン濃縮プラントは発生する核廃棄物をロシアに押し付けている。
数千トンにもおよぶ务化ウランをグローナウ市にある Urenco 社のウラン濃縮プラントはロシアで廃棄した。表向きには「核燃料」と称された放射性廃棄物は、ウラルの「立入り禁止地区」に運ばれ、錆付いた核廃棄物のドラム缶は露天に放置されている。ロシアの核燃料を取り扱う Tenex 社は、表向きには燃料とされる廃棄物の仕入れに費用を一切支払う必要がなかった。多大な金額を Urenco 社が厄介払いのために支払っていたのだ。

#64  幻想曲風に――月光ソナタ

月は遠く離れすぎている。
最初は核廃棄物は何の問題もないと言われた。なぜなら科学者たちは核廃棄物処分についての素晴らしいアイディアを次から次へと生み出したからだ。――地面に染みこませる、「核の池」に沈める、地下水に流す、川に流す、海に沈める、砂漠に放置する、穴を掘って埋める、古い防空壕に保管、ステンレス容器に密閉、北極の氷の中に閉じ込める、宇宙や月に打ち上げる、などなど。
最後のアイデアは月が遠すぎたことから失敗に終わった。他のいつくかのアイデアや新しいアイディアは、今も実施されている。

#65  核の錬金術

核変換も核廃棄物問題を解決しない。
核廃棄物処理の素晴らしい方法として多くの人が賛美しているのが核変換である。中性子を利用して長寿命核種を短寿命の核種に変換したり、ほとんど放射性を持たない物質に変換させることができるという。この変換の前提条件は、高レベル放射性物質が混ざったカクテルを高精度で入念に個々の構成物質に分別することである。さらに、その上でそれぞれの物質を、非常に特殊で多大なエネルギーを浪費するそれぞれの処理用にそれぞれ専用に製造された原子炉内で行う必要がある。結論を言えば、極度に手間がかかり、危険でコストが高く、技術的な実現性にも疑問符がつく。その上、核廃棄物がそれでもなお残る。

ボーナス  ♯108  冷戦

ゴアレーベンはニーダーザクセン州の旧東ドイツに対する復讐であった――漏水するモアスレーベン最終処分場への。
1970 年代に最終処分場の候補地選択を依頼されていた地質学者ゲルト・リュッティク教授は、定年退職後に、なぜニーダーザクセン州の当時の大統領アルブレヒト(CDU 党)が、専門的知見からはただの「第三ランクの候補地」だったにもかかわらず、ゴアレーベンの岩塩採掘跡地を最終処分場に選出したかのを報告している――ニーダーザクセン州を汚染する恐れのあった東西ドイツの国境近くの、旧東独側のモアスレーベン最終処分場への「東」に対する復讐からだという。アルブレヒトのモットーは、「今こそやつらに見せつけてやるぞ!」というものだ。

ボーナス  ♯109  地下に隠された死体

核廃棄物処分場アッセに、原子力産業は放射線で死亡した労働者の遺体の一部を処分した。
「試験最終処分場」としてカムフラージュされた陥没の恐れのある核のゴミ捨て場アッセ IIには、原子力産業がすぐにでも投げ出したかったあらゆるものすべてが廃棄された。例えば、1975 年 11 月 19 日に原発グントレミンゲン A における原発事故で死亡した 2 人の労働者の放射線で汚染された体の一部もそこに廃棄した――遺体の一部は、カールスルーエ原子力研究センターの核廃棄物焼却施設において灰にされ、容器に梱包されて、ここに運び込まれている。

ボーナス  ♯110  見せかけの調査

ゴアレーベン岩塩採掘跡地の「調査」は、最終処分場建設のためのカムフラージュにすぎない。
非公開の会談で連邦政府は、1982 年にゴアレーベン岩塩採掘跡地を、それまで公的に主張されていたように「調査する」だけではなく、そこに同時に最終処分場を建設することを取り決めた。そのためゴアレーベンの縦坑と坑道は、調査で必要とするよりもおよそ 2 倍に大きくなり、追加コストはこれまでにおよそ 8 億ユーロ必要となった。このトリックにより政府は、当時すでに最終処分場建設に必要であった原子力関連法案の手続きをすり抜けた。今の環境大臣レットゲン(CDU 党)も計画されている調査坑道のさらなる建設工事のために、この 1983 年に活用した古びれた枠組みの運営計画をそのまま使おうとしている――そうすることによってのみ、今後の住民参加手続きを避けることができるからだ。

ボーナス  ♯111  殺しのライセンス

核廃棄物の最終処分場は密閉されていなくても良い、と環境省は決定した。
核廃棄物の最終処分場は、それが生物圏から完全に隔離されない場合であっても、まだ「安全」だとされている。これは、2009 年に連邦環境相ガブリエル(社会民主党)が公開した最終処分場のための安全必要条項の中に記載されている。より正確に言えば、近隣住民の 1,000 人に 1 人が放射線の漏洩により癌を発症するか、その他の深刻な健康被害を受けることをこの条項は許している。放射性物質が地下水を通じて大きな範囲に拡散するため、かなり多くの人びとが「近隣住民」と見なされる――これから先 100 万年にかけて。

ボーナス  ♯112  破裂するガラス固化体

ガラス固化された核のスープは破裂しうる。
高レベルの放射性物質で、液状、強度に自己発熱し、爆発の危険性があるのが、使用済み燃料の再処理において生じた核廃棄物である。この「核のスープ」を少なくともいくらか取り扱いを容易にするためにガラスの中に溶け込ませる――化学的にはとても安定した結合物だといわれている。しかし化学者は、このガラス固化体も水との接触の際に、場合によっては破裂し、非常に危険な物質が洗い出されうることを証明している。最終処分場が永続的に乾燥した状態でないなら、危険がある!

ボーナス  ♯113  ご都合主義

ゴアレーベン岩塩採掘跡の上にはそれを守る粘土層が存在しないと分かるや、最終処分場にはそのようなものは必要ないという。
1995 年に連邦地質学・天然資源庁は、41 の北ドイツにある岩塩採掘跡地の核廃棄物最終処分場としての適性の可能性について調査した。この調査では「岩塩層の被覆バリア機能」の大きな意味を明確に強調しており、これは下にある岩塩層を水から守るためのものである。ゴアレーベン岩塩採掘跡は、水が通る亀裂が地中に走っており、そもそもこの調査の対象外だった――そうでなければここはすぐに検討から外れていただろう。2009 年の新しい最終処分場基準では、岩塩層の上で防護の役割を果たす被覆層についてはもう触れられていない。このようにしてゴアレーベン最終処分場の検討は、今後も可能であり続ける。


#66~#71+#114 気候保護と電力供給 [目次へ戻る]


#66  安定供給

原子力発電所は安定供給をしているわけではない。
原子力からの電気――それは停電も意味する。安全性欠如のため、例えば原発ビブリスA では 2007 年に全く発電しなかった。原発ビブリス B も同時に 13.5カ月間停止している。2009 年初頭、この 2 つの原子炉はまたもや稼働を停止した――それぞれ 13カ月、および249カ月にわたって。原発クリュメルはすでに 3 年間発電しておらず、原発ブルンスビュッテルも同様の状態だ・・・
2007 年と 2009 年には、17 基の原子炉のうち 7 基が同時に修理のため停止された。また夏季には原子力発電所が役に立たない――河川水温が高すぎて、冷却水を確保できず、定期的に出力を落とさなければならないからだ。

#67  過剰生産

原子力発電所は無駄が多い。
2007 年と 2009 年において、17 基ある原子力発電所のうち 7 基が一時的に同時に停止された時でさえも、ドイツは相当量の電力を輸出していた。連邦環境省と連邦経済省はそれぞれ独自の調査によりこれを裏付けている――電力供給の空白は生じず、脱原子力によっても安定供給はなされる。原発を廃炉しても、再生可能エネルギーや節電、コージェネレーションで代替することができる。

#68  温室効果

原子力からの電気は CO2 フリーではない。
ウラン採掘やウラン精製、ウラン濃縮には莫大な量の気候変動の原因となる温室効果ガスが排出される。それゆえ今日でもすでに、原子力発電の電力は、風力や天然ガスによるコージェネレーションの電力よりも CO2 バランスが悪い。将来的にはこの CO2 バランスはさらに悪化する――鉱石中のウラン含有量が少なくなればなるほど、ウラン採掘と精製に化石エネルギーを投入することになるからだ。

#69  気候保護

原子力は気候を救わない。
原子力は世界エネルギー需要の僅か 2%しか賄っていない。そのようなニッチの技術で気候を救うことはできない。その反対である――原子力は再生可能エネルギーの拡大を阻止し、エネルギー供給の転換を妨げ、エネルギー浪費を促進し、我われが将来の持続可能なエネルギー供給システムのために必要とする資本を奪う。

#70  非効率

原子力とは、純粋にエネルギー浪費のことである。
物理的に原子力発電所は、核分裂によって放出されたエネルギーの約 3 分の 1 のみ電気に変換できる。残りの 3 分の 2 のエネルギーは――生態系にダメージを与えながら――河川や大気を温め続ける。石炭発電所でさえ、原発よりも高い熱効率を発揮している。

#71 電気の浪費

原子力は電気の浪費を促進する。
原子力発電所は常時稼働するケースでのみ採算が取れる。しかし夜間に必要とされる電力は少ない。原子力コンツェルンが数十年にわたって、夜間蓄熱暖房機を推奨したのは自明のことである。しかしその暖房機器が稼働するのは冬季だけである。それでは夏季の原子力からの電力はどこで必要とされるのだろう? フランスの原子力コンツェルン EdF 社はこの分野の先駆者であり、すでにそれに対してすばらしい営業アイデアを展開している――彼らが推奨するのはエアコンだ。

ボーナス  #114  核融合という幻想

核融合は今日すでに活用することができる――ソーラーエネルギーの形で。それ以外の全ては時間と金がかかりすぎる。
原子力の別の利用法――それが核融合だ。それは原子核の分裂ではなく、融合によってエネルギーを獲得しようとする。問題となるのは、そのためには1.5億℃までの高温が必要なことであり、それは太陽の10倍の熱さであるということだ。人間の手による核融合の実例はこれまで水素爆弾だけだ。地上の「核融合発電所」は、すでに 60 年代に約束されていたが、数十億ユーロもの研究費にもかかわらず 50 年経っても兆しすら見えない。万が一それができたとしても、燃料には数トンもの放射性トリチウムが必要となり、新しい危険な核廃棄物を生産することになる。それに対して天高くには私たちの惑星システム最大の核融合発電所、太陽が稼動している。私たちが未来永劫にわたって必要とするよりも数万倍ものエネルギーを届けている。そして、太陽は今日、すでにまっ
たく危険なしで活用することができる。


#72~#79 権力と利権 [目次へ戻る]


#72  補助金

原子力開発部門は数十億ユーロ規模の補助金を得ている。
原子力技術の研究と開発に対しては、ほとんどすべて国が支払っている。さらに国は最初の原子力発電所の建設にも税金で力強く支援をし――そして原発の解体作業にも引き続いて国費が投入されている。それに加えて減税措置や数多くの助成金、核廃棄物の処理費用、国庫の優遇的な利用、輸出の際の担保契約がある。1950~2008 年までに、直接的、あるいは間接的に国が支払った補助金は 1,650 億ユーロに達し、さらに 930 億ユーロはすでに支払う予定がある。欧州原子力共同体(EURATOM)は、これまでおよそ 4,000 億ユーロを原子力産業にばら撒いてきた。そして今でも毎年 2 億ユーロほどの税金が、新しい原子力プロジェクトと原子力の研究に流れている。

#73  非課税の燃料

ウラン消費は非課税である。
非課税の唯一の燃料として、ウランはこれまでに課税されたことがない――毎年数十億ユーロの原子力コンツェルンへの贈り物だ。さらに核燃料製造の際に生じる CO2 排出に対しても、原子力コンツェルンは CO2 排出権を購入する義務がない。

#74  非課税の内部留保

原子力コンツェルンは、数十億の収入に対して税金を払う必要がない。
数十年にわたって原子力発電所を運営する企業は、原子力発電所の解体や核廃棄物の貯蔵のためと称する内部留保に対して、非常に寛大な免税措置を享受している。この内部留保が生み出す利子ですら免税なのだ。これまでに蓄えてきたおよそ 280 億ユーロのそのお金を、原子力コンツェルンは他の企業を買収したり、新規事業へ投資する軍資金として活用している。連邦財務省はこの免税措置によってこれまでに最大 82 億ユーロの収入を逃してきた。

#75  ドイツの研究分野の阻害

核関連施設の廃墟のために数十億の研究費を費やしている。
研究炉、実験炉、試験発電所、パイロットプロジェクトとしての発電施設、高速増殖炉、ホットラボ、試験再処理工場――数十億ユーロものコストを 50 年代からこれまでにドイツは原子力研究や原子力技術につぎ込んできた。これらはとうの昔に廃止されており、放射線を撒き散らすこれら廃墟のために現在も膨大な研究予算をかけ続けている。連邦研究省はこれまでに 30 億ユーロもの税金を解体、浄化、核廃棄物の処理などに投じてきたが、さらに同額が今後の数年間で必要になるという――これは他の分野の学問や研究のために不足している私たちにとって大切な財源のはずだ。

#76  脱原発先送りの利益

脱原発の期限延長で利益を得るのは電力コンツェルンのみである。
ドイツのすべての原子力発電所はかなり前に減価償却されている。それによって今では、とりわけ賠償保険の欠如、燃料税の非課税、さらに内部留保の免税措置もあって、かなり安価に電気が生み出されている。しかし、私たち消費者は、その恩恵には全く預かっていない。なぜなら電力価格は電力市場で決まり、その取引価格は需要のピーク時の価格に依存するからだ。原子力発電所はこうしたピーク電力は、出力調整が効かないため全く発電できない。その結果――古い原子力発電所からの電力による利益は、電力コンツェルンのみが得ている――原発を長く稼働させればさせるほど、さらに多くの利益が。2002~07 年までの間に EnBW、E.ON、 RWE、Vattenfall という 4 大電力コンツェルンはそれぞれの利益を3倍にした。電気料金が下がったところはどこにあったか?

#77  電気料金

原子力発電による電力が、電気料金を高騰させている。
電気料金はここ数年高騰している――原子力発電をしているにもかかわらず。その決定的な原因の 1 つは、ライプツィヒ電力取引市場の電力供給量を圧倒的に支配している 4 大電力コンツェルンの独占権力である。2002~08 年にかけて EnBW、E.ON、RWE、Vattenfall の 4 社は、およそ1,000 億ユーロの利益を計上した。同じ期間中に彼らは電気料金を 50%以上値上げしている。原子力発電所はコンツェルンの市場での独占権力を強固にし、数十億もの利益を確保する。それに対して再生可能エネルギーは、すでに今日の時点でも電気料金を緩和する効果がある。風力発電の恩恵で、消費者は毎年数十億ユーロも節約しているのだ(MeritOrder 効果)。もし現在の原子力への過大な助成措置がなくなれば――例えば、原子力発電所に現実的な賠償保険額をカバーすることを義務付けたり、内部留保の非課税を取り消したり、ウラン燃料税を導入すれば――たちまち原子力発電からの電力は誰もが購入できないほど高騰する。スイス・バーゼルの Prognos 研究所は、1992 年に現実的な原発電力の値段をおよそ 2 ユーロ/kWh と算出している。

#78  市場で生き残れない

新規の原子力発電所は採算が取れない。
市場経済が支配的なここ 20 年間においては、原子力発電所はほとんど建設されていない――同じ期間中に世界全体の発電所出力は数十万 MW 増加しているにもかかわらず。これは、新規の原子力発電所は採算が取れないことを意味している。この点においては、フィンランドとフランスの両国で建設中の最新の原子炉についても全く同じだ。フィンランドの原子炉はダンピング価格の入札で、補助金を与えられた上で決まった(とりわけバイエルン州立銀行の好条件の低利子融資=バイエルン州の補助、訳注:シーメンス社はバイエルン州を代表する企業)。建設コストはとうの昔に高騰している。またフランスでは、原子力産業 AREVA 社と電力独占企業 EdF 社がしっかりと国の手中にあり――そこでは市場経済原理などほとんど考慮されない。E.ON 社の経営者も率直に「国の金なくして、原子力なし」と認めている。

#79  コンツェルンの権力

原子力は、エネルギー供給の中央集権構造と巨大電力コンツェルンの権力を強固にする。
ドイツでは、4大電力コンツェルンが電力市場を支配している。電力コンツェルンは電力系統を独占し、大型発電所を稼動させ、電気料金を決定し、信じられないほど深くエネルギー政策に食い込んでいる。原子力は電力コンツェルンの影響力を強化する。市民出資、または地方自治体の管理による分散型で効率が高く、環境に配慮された発電所は、電力コンツェルンの影響力を弱める。それゆえ、原子力発電所を運営する電力コンツェルンは、そのような発電所を全力で阻止しようとする。


#80~#87+#115 自由と民主主義 [目次へ戻る]


#80  自由の剥奪

原子力は私たちの自由を奪い、私たちの基本的人権を制限する。
使用済み核燃料のキャスク運搬に反対するデモが迫ると、当局はただちに集会の自由という基本的人権を数 km2 の広さにも及んで制限し、平和的な抗議も警察の力で排除する。道路閉鎖の柵がその地域全域を封鎖し、市民は氷点下のなか何時間も拘束され、一部ではトイレの準備すらない。長期間にわたり公安は、反原発主義者をテロリスト扱いして監視や尾行を行い、電話を盗聴し、家宅捜索を行っている。警察は数千人のデモ参加者を、不法に、裁判所による審査もなしに、小部屋、営舎、車庫、体育館や、それどころか鉄の檻の中に、ときには数日間も拘留する。ここで私たちの基本的人権を制限するのは、どのような権利に基づくものだろうか?

#81  生存権

原子力は生存権を侵害する。
原子力発電所は、私たちの生存権と身体を害されない権利を脅かす。それゆえ、ドイツ連邦憲法裁判所は「カルカー判決」において、原子力発電所の稼動を「変動的原則」と結びつけた。この判決によれば、原発の安全対策は、まず第一に、科学と技術の最新の状況に常に適合していなくてはならない。第二に、原子炉は、想定しうるかぎりのあらゆるリスクから保護されなければならない。このどちらも残念ながらなされていない。それにもかかわらず、いまだどの監督官庁も、原子力発電所の稼働許可を取り消していない。

#82  警察の暴力

原子力反対の抗議活動を阻止するために国家は暴力を行使する。
うまく反論できない者には、暴力しか残されていない――警察はこれまでに数万人の市民に対し、警棒で、足蹴りで、拳で、放水車で、格闘技の絞技で、ペッパースプレーで、ガス榴弾で乱暴に扱い、負傷させ、これまでに 2 名が死亡している。この 2 人は何をしたのか?彼らは反原発のデモを行ったのだ。

#83  50 年間の争い
原子力は、数十年にわたり社会を分裂させる。
1950 年代にドイツで最初の原子炉が建設されて以来、原子力にまつわる対立がある。なぜなら原子力は生命を脅かすからだ。これは今日まで何も変わっていない。それゆえ完全な、事実上の脱原発だけが、この対立を終わらせることができる。電力コンツェルンは 2000 年 6 月 15 日、いわゆる「脱原発合意」において段階的な脱原発に同意し、署名により国と契約した。その代償として彼らは、かなり多くの見返りをもらった。EnBW、E.ON、RWE、Vattenfall の電力コンツェルン 4 社は、いまやあらゆる策略やロビー活動などのイニシアチブによって、合意した期間よりも原子力発電所を長く稼動させようと試みているが、それは彼らが「脱原発合意」と契約を破っていることに他ならない。

#84  コンツェルンによる政治

電力コンツェルンの政治への影響力が大きすぎる。
産業と政治がこれほど密接に、互いに絡み合っている分野は、エネルギー産業以外では他に見あたらない。多くの政治家、上級公務員は、まず企業の意向に沿った政治を行い、その後、その企業で非常に有利なポストに天下ったり、契約を得たりする。ヴォルフガンク・クレメント、ヨシュカ・フィッシャー、ゲラルト・ヘネンヘーファー、ヴァルター・ホーレフェルダー、ヨアヒム・ランク、オットー・マイェフスキ、ヴェルナー・ミュラー、ゲアハルト・シュレーダー、アルフレート・タッケ、ブルーノ・トマウスケ、ゲオルク・フライヘア=フォン=ヴァルデンフェルスらが代表的だ。また、現職の国会議員(レッツォ・シュラオホ、グンダ・レステルなど)も、電力コンツェルンやその子会社で収入を得ている。コンツェルンの権力は、民主主義の弊害になる。

#85  国民の白痴化

「原子力がなければ電気が消える」という作り話を、電力コンツェルンは 30 年以上も語り続けている。「太陽光や水力、風力では、わが国の電力需要の 4%以上を長期にわたって賄うことはできない」。これは、ドイツの電力コンツェルンが 1993 年の半ばに行っていた全国の新聞各紙への広告内容である。しかし事実はこれに反する――2009 年にドイツで消費された電力の 16%以上が、再生可能エネルギーで生産され、はやくも 2020 年にはその割合は 50%になりうる。今世紀半ばまでには電力供給の 100%を再生可能エネルギーで賄うことも可能だ。

それにもかかわらず電力コンツェルンは、彼らの原子力発電所の残りの稼動期間を延長させるために努力し、今日でも「長期の停電」が差し迫っているという作り話を吹聴している。誰がそれをいまだに信じるのか?

#86 望ましくないこと

誰も原子力発電所の隣に住みたくない。
ドイツ原子力産業フォーラムが委託したアンケート調査を信じるならば、原子力はもうすぐ再び社会に受け入れられるという。しかし、Emnid 世論調査研究所が 2008 年半ばに得た回答のほうが、より信用でき、訴える力が大きいだろう――回答者の 3 分の 2 以上が、自分が住んでいる地域への新たな原子力発電所の建設を拒んでいる――たとえそれと引き換えに、一生電気代が無料になったとしても。

#87  倫理

原子力の利用は倫理に反する。
原子力発電所は、わずかな人びとが、わずかな時間しか利用できないのに、非常に多くの人の命と健康に大きなリスクを背負わせる。原子力発電所は、数十万年も安全に保管しなければならない核廃棄物を後世に残す――この先の 4 万世代にとって、想像できないほど重い負の遺産である。

ボーナス  #115  法の保護なし

未来の世代は、法によって核の危険から保護されない。
最終処分場から何かが漏出すれば、それはまず第一に未来の世代に被害を与える。しかし、もし現在の監督官庁が未来永劫の長期間にわたる安全保護についての見通しを見誤ったりしても、それを誰一人として法廷で訴えることはできない。なぜなら千年後に放射性物質が再び地上に顔を出しても、その原因を作った原告自身はすでに存在しないからだ。そして、将来の世代の損害は、法廷では主張することができなくなる。このことについて、リューネブルク上級行政裁判所は、計画されていたコンラート坑道の最終処分場を巡る訴訟の中で良しと判断し、それを連邦憲法裁判所が追認した。忘れてはならない――核廃棄物は法治国家すら消滅させるのだ。


#88~#93+#116 戦争と平和 [目次へ戻る]


#88  偽装プログラム

原子力の平和利用と軍事利用は切り離せない。
ウラン濃縮工場は核爆弾につかう高濃縮ウランを製造できる。原子炉でも大量のプルトニウムを増殖できる。「ホットセル」内で核爆弾を製造することも可能である。再処理工場では原発の核廃棄物から原子爆弾の原料プルトニウムを抽出している。多くの国々では平和的核利用という隠れ蓑の下、核兵器開発を進めており――いくつかの国ではそれは非常に成功している。原子力発電所の数が多ければ多いほど、それだけ軍事的、あるいはテロのために悪用される危険性も大きくなる。

#89  高速増殖炉

「高速増殖炉」は、核兵器拡散の危険を累乗的に増大させる。
「高速増殖炉」という原子力発電所は、従来の原子炉と比べて格段に危険で、より高い確率の事故のリスクがある。さらにそこでは燃料としてウランではなく、プルトニウムを使用する。「高速増殖炉」の大規模稼働で膨大な量のプルトニウムが生産され、それが商品として市場に流通する。そうした流通サイクルの中から核兵器を製造するためにプルトニウムを数キロばかり流用したり、抜き取ることなど容易である。

#90  汚い爆弾

核施設から出る放射性物質は「汚い爆弾」のために悪用されうる。
ある核施設から出た放射性物質をほんの少し普通の爆発物と組み合わせれば、いわゆる「汚い爆弾」の製造ができあがる。爆発すれば、放射性物質が霧のように拡散し、追加の効果として周辺環境を汚染する――恐るべき脅威だ。

#91  攻撃の標的

原子力発電所は、攻撃の標的である。
数百万という人間に危害を加え、命を奪い、地域全域を居住不可能にするのに、原子爆弾を持つ必要はない。原子力発電所を 1 つ攻撃すればそれで事足りる。ドイツ政府の依頼で行われた極秘のフライトシュミレーション実験では、舵を握った被験者の 50%が、ジャンボ旅客機を原子力発電所に突入させることに成功した。ドイツ連邦刑事局は原子力発電所の空からの攻撃について「最終的にはその可能性を考慮に入れなければならない」と判断している。

#92  务化ウラン弾

ウラン濃縮の過程で生じる放射性廃棄物は、务化ウラン弾になる。
多くの軍隊、とりわけアメリカ合衆国軍は、务化ウランから製造した务化ウラン弾を使用している。それは標的に命中すると微粒子の塵になって拡散し、発火炎上し、周囲を汚染する。この放射性の微粒子は、兵士、民間人を問わず深刻な健康障害を引き起こす。軍は、务化ウラン弾の使用根拠として、密度が非常に高く貫通力に優れていることを挙げている。原子力産業は、自身の生み出す放射性廃棄物を安価に「処理」できることで潤っている。

#93  ウランをめぐる抗争

原子力産業のウランへの渇望は、新たな争いを煽りたてている。
アフリカ諸国におけるウラン分布は、かの地に数十年にわたって続く紛争と深い関係がある。原子力発電所の数が多ければ多いほど、天然ウラン資源への依存度が大きくなる。すでにかなり前からウランは投機の対象である。ウラン埋蔵量が少なくなれば、石油抗争と同様に「ウランを巡る戦争」の現実味が上昇する。

ボーナス  #116   キャンパス内の爆弾の原料

ミュンヘン工科大学は武器になるウランをため込んでいる――大学の研究炉の燃料として。
国際的な抗議にもかかわらずミュンヘン工科大学は、兵器になる高濃縮ウラン燃料を必要とする研究炉を固持している。400kg ものこの危険極まりない物質が、ガルヒンク市にあるキャンパスに貯蔵されている。15kg 強で初心者でも原子爆弾を製造することができる。さらに、ここガルヒンク・キャンパスで発生する使用済み燃料から核兵器を作ることすらできる。ミュンヘン工科大学はどこにこの危険な廃棄物を保管しているのか? アーハウス市の特に厳重に守られていないキャスク倉庫の中である。


#94~#100 エネルギー革命と未来 [目次へ戻る]

#94 再生可能エネルギー
100%再生可能エネルギーによるエネルギー供給は可能である。
今日すでに、再生可能エネルギーは世界のエネルギー総消費量の 6 分の 1 を占めている。石油、ガス、石炭、ウランの残り埋蔵量は減少し、地球温暖化は進む一方だ。太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱発電は地球がある限り持続可能である。国家レベルのものを含む非常に多くの研究が、次のことを示している――100%再生可能エネルギーによるエネルギー革命は可能である。それは私たちに残された唯一のチャンスでもある。

#95  相容れない関係

原子力と再生可能エネルギーは共存できない。
先頃、電力大手E.ON とEdF はイギリス政府に対し次のように迫った。「ロンドンがこれ以上再生可能エネルギーを推進するつもりなら、私たちは新たな原子力発電所に投資しない」。なぜなら高額な原子力発電所は、稼働率を上げ常時電気を売りさばいてはじめて採算がとれるのだから。再生可能エネルギーとの組み合わせに適しているのは、素早く、簡単に出力調整できる発電所だけである。太陽光、風力、水力による環境に優しい電力の不足を補充するのが、その唯一の役割となるからだ。しかし原子力発電所は、技術上、まったく調整が利かない。したがって原子力と再生可能エネルギーは決して 1 つのチームにはなりえず、つねに敵同士となる。原子力発電所を建設すれば、再生可能エネルギーの拡大を妨げる。あるいは、これまでに述べたように、逆もまたしかり。

#96  投資の障害

原子力は、イノベーションと投資の妨げとなる。
再生可能エネルギーは世界的にも、もっともダイナミックで、もっとも成長の見込まれる業種の 1 つである。再生可能エネルギーのブームによって、ドイツでは多くの国内企業がその研究と開発に投資した。そしてドイツは多くの分野において今日、技術的に世界の最先端であり――将来の見通しも明るい。いまや「made in Germany」の風力発電機、水力発電用のタービン、バイオガス発電施設、太陽光発電パネルといえば輸出のヒット商品である。2008 年に世界で新たに建設された風力発電の 3 つに 1 つはドイツ製であった。ドイツの再生可能エネルギーへの投資は、世界同時不況の発生した 2009 年でさえ 20%伸び、180 億ユーロになった。原子力発電所の稼働期間の延長は、再生可能エネルギー分野への投資の安全性を奪う。それは研究と開発の妨げとなる。原子力に執着するものは、環境に優しく、輸出に強く、今世紀最大のブーム産業の拡大に水を差す。

#97  2%のテクノロジー

原子力は、特筆に値するようなエネルギー供給を担えない。
世界にある計 438 基の原子力発電所における発電電力量では、世界のエネルギー需要のわずか 2%強しか賄えていない。滑稽なほどの少なさだ。同じエネルギー需要のもとでこの割合を 10%にまで引き上げようとすれば、新たに 1,600基の原子力発電所を追加で建設しなければならない。そうなれば天然ウラン資源は約十年後に枯渇する。人は結局その後で、別の選択肢を探すことになる――それは例えば、再生可能エネルギーだ。

#98  時代遅れの遺物

原子力は世界中で時代遅れの遺物である。
ヨーロッパでは 46 各国のうち原子力を使用しているのは、18 国のみである。そしてそのうちの 2 国のみが新しい原子炉を建設中である。EU27 カ国内では、原子炉の数も原子力が電力供給に占める割合も、両方とも低下している。世界中でここ 10 年間に総出力 26GW の 35 基の原子炉が新しく稼動を始めた。しかし現在稼働中の 438 基の原子炉のうち、348 基(総出力 293GW)はすでに 20 年以上経過する古いものである。それらの原子力発電所を置き換えるだけのために、今から 2030年までに 18.5 日毎に新しい原子炉を稼動させなくてはならない。現在の状態はそれには程遠い。

#99  雇用

原子力は雇用を脅かす。
再生可能エネルギーは国内で最大の雇用発生装置である。将来性、持続性のある 30 万人分以上の職場がわずか数年のうちに確保され、しかもそのうち 5 万人分はここ 2 年間のうちに創出された――経済危機にもかかわらず。原子力産業では合計してもわずか 3.5 万人を雇用しているのみである。経済予測では、電力系統の中で今後もエコ電力の優先を保障する限り、2020 年までにさらに 20 万人の職場が創出されるという。脱原発の期限の延長や、脱原発自体を取り消すことは、エネルギー革命を阻害し、非常に多くの雇用を脅かす。

#100  エネルギー革命

原子力はエネルギー革命を阻害する。
原子力は私たちのエネルギー供給の再編成のためのすべての努力を無駄にする。原子力は投資資本を束縛し、電力流通を妨げ、分散型の再生可能エネルギーの拡大を遅らせる。とりわけ原子力は大企業の億単位の利益と影響力を確保するために、ここ数十年にわたって再生可能エネルギーと省エネの推進を妨害してきた。

そして

#101  あなたの意見は正しい!

あとは、あなたの意見が抜けています。
当然のことながら、他にも数多くの原子力に反対する十分な理由があることでしょう。それゆえ、この 101 番があります。あなたの持つ意見のために番号を予約してあるのです。もしあなたが新しく、そして優れた理由をお持ちであれば、その出典とともに以下のアドレスにお送りください:info@100-gute-gruende.de

(訳注:基本的にドイツにおけるキャンペーンですから、日本の事情をここに持ち込まれても先方は困りますが、もし実際に送付される方がいれば、国際的な見地に立つ意見をお願いします。なお、先方が判読できるように、英語かドイツ語でお送りください)

追伸――日本における原発事故について
日本の原発の破局的な大事故は、原子力をコントロールできないことを明らかにした。
津波や原発事故によりいつ帰れるかわからないまま故郷を離れなければならない方、健康やもしかしたら命までも犠牲にして最悪の事態を防ごうとしている技術者や作業者の方、そしてもちろん地震の影響を大きく受け、追加で放射能汚染に怯えなければならない日本の市民の方など、日本のみなさんを思うと心を痛めています。20 年以上前からシェーナウ電力会社は、チェルノブイリ原発事故の被爆者を支援しており、このような事故が人間に想像できない苦しみを与えることを知っています。原子力エネルギーの危険性についての多くは知られています。現在、日本からの情報は非常に限られています。WWW.100-GUTE-GRUENDE.DE は日本の状況を調査し――信頼できる情報源が見つかったなら――そこから導き出された知見により新しい理由をまとめる予定です。日本の状況に関しては 100 の理由のうちとりわけ以下を参照してください:
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#18 放射能の汚れ仕事

#25 地震の危険性

#28 保険

#29 破局的な大災害

#31 悪天候

#34 ホウ酸

#36 チェルノブイリより悪い事態

#38 故郷の喪失

#40 ヨウ素剤不足

#66 安定供給

#81 生存権

#87 倫理

#102 チェルノブイリ35


日本の現状についての情報一覧と、最も重要な時系列の事故履歴については以下をご参照ください: http://www.ausgestrahlt.de/hintergrundinfos/akw-fukushima.html
サイト「.ausgestrahlt」には、ドイツで企画される催しについて多くの情報が記載されています: http://www.ausgestrahlt.de
チェルノブイリの事故後に市民運動から生まれたシェーナウ電力会社のエコ電力を購入することにより、あなたの個人的な脱原発が可能になります。
http://www.ews-schoenau.de
Elektrizitätswerke Schönau Vertriebs GmbH
Friedrichstrasse 53/55, 79677 Schönau
2009
info@ews-schoenau.de
www.ews-schoenau.de

[引用ここまで]



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